第29話

 メッセージに気付いたのは寝室へ入ってからだった。

 彼女からのお礼と謝罪。ありがとうとごめんなさいが言える、律儀な子。

 今日の事は忘れて、週明けにはまた元気な姿を見せて欲しい。そんな思いで『おやすみ』のスタンプを返した。

 すぐに既読が付いて返事がきた。

『少し話をしたいのですが』と。

珍しいなと思い、こちらから電話をした。


「どうかしたの?」

「ちゃんとお礼も言えなかったので。課長、今日はすみませんでした」

 声に張りがあるので少しは落ち着いたようだ。

「山本さんが謝ることはないでしょ? 私の方こそお節介だったかもって思ってたところなの」

「いえ、あの、助かりました。私がもっとキッパリ断るべきだったんです」

 直属ではないものの、職場の人間関係を壊したくないのだろう。出来れば穏便に済ませたいと思うのは仕方のないこと。

「それとーー」

 そう言って黙った。

「うん、どうした?」

「課長と食事の約束してたのに飲み会に行ってしまって、ごめんなさい」

「え、それは私がキャンセルしたじゃない、そんなこと気にしなくていいのに」

 もしかして、それであんな悲しそうな顔してたの? 私が怒ってるとでも思って?

「また一緒にご飯食べに行きたいです」

 なんて可愛い言葉と、ズズッと鼻を啜る音も一緒に聞こえてきた。

 全くこの子はーー


「山本さん、明日何か予定ある?」

「いえ」

「だったら明日、ご飯食べに行こう」

「えっ」

「今日のやり直し、どう?」

「はいっ、是非」

 声で、彼女がどんな顔をしているか分かってしまうほど、喜んでいるみたいで。

 そんなに私のことを?

 なんて、自惚れてしまうから。それを私も嬉しいと思ってしまうけど、そんな気持ちは決して知られてはいけないわけで。でもーー


「もうこんな時間だから、午後待ち合わせて夕飯で良い? 私ちょっと探し物があって古書店巡りする予定だから、神田辺りでも良いかしら?」

「はい、あの私も一緒に古本屋さん行ってもいいですか?」

「え?」

「あ、ほら。探し物だったら1人より2人の方が見つけやすいかも、だから」

「ええ、いいわよ」

「やった!」

 あぁ、またガッツポーズしてるんじゃないかな。

 そんな想像をして、明日を楽しみにしている私がいた。

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