第14話

「座って、今コーヒー淹れるわね。ブラックで良かったわよね」

「あ、私が」

「いいの、座ってて」

 彼女の緊張がヒシヒシと伝わってくる。


 部長はああ言ったけれど、私の感情に素直になるわけにはいかない。私のせいで彼女が悩んでいるのだとしたら、それで仕事でミスをしたのなら。いやミスするのは構わない、カバーはいくらだって出来る。けれどそれで信用や自信を失ったなら。

 前途有望な若者の将来を守るのが上司としての役目だろう。


「どうぞ」

「あ、ありがとうございます」

 私がカップに口をつけても彼女はじっと俯いていて。

「すみませんでした」

 いきなり謝ってきた。

「えっと?」

 表情からは思い詰めている感じが窺えたため、余計な言葉は挟まず先を促した。

「私のミスでご迷惑をおかけして申し訳ありません」

「報告は受けているけど、その事で呼んだんじゃないわよ。でもまぁ気にしてるみたいだから、そこから始めましょうか。ミスの原因は何だと思いますか?」

「私の……不注意です。失念というか、すっかり忘れていて」

「では、どうすれば防げたかしら?」

「それは、もっと集中して仕事していれば……少しぼんやりしてました。申し訳ありません」

「それはでも、無理よね? 出社している間ずっと集中して仕事をするなんて、身も心も疲れちゃうわよ」

「でも」

「ヒューマンエラーは致し方ないと思うの、人間なんだもの誰だって間違えることはある、それをカバーするためにチームはあるの。自分一人で抱えないで、誰かに伝えるなりメモを残すなり、山本さんなら出来るわよね?」

 彼女のコミュニケーション能力ならば容易いことだと思う。

「はい、いつも助けてもらってます」


「ね、顔あげて?」

 言葉とは裏腹に、ずっと俯いている彼女。責めているわけではない事を、どうすれば伝えられるのか。

「ミスや間違いは、どんどんしてもいいと思うの」

「え?」

 あ、ようやく目を見てくれた。

「間違いがわかれば正解もわかるでしょ? ミスをすればミスしないようにする方法もわかる筈なの。ミスを怖がらないで」

「でも、カバー出来ないような致命的なミスしたらって」

 やっぱり不安ですと、また俯いてしまった。

「覚えておいて、その時は私が……私たち管理職が責任を取るから」

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