第3話

 私は女性を好きになる。

 高校の時に一度だけ、女の先輩と付き合ったことがある。

 だがそれ以降は、好きになっても成就したことはない。

 仲良くはなっても、告白する前に相手に彼氏が出来たり好きな人が出来たりと、その恋を友人として応援したり見守る立場となるのだ。辛い。

 もしもこの世に女性しかいなかったのなら、堂々と好きな子を口説けるのに。

 ここ数年は、いつもそんな事を考えていた。


 さりげなく右隣に座っている飯田課長を盗み見る。

 年齢は私よりも随分上だけど、入社当時から憧れていた。容姿はもちろん、仕事に対する姿勢や部下への指導力等、私以外にもーー特に男性社員ーーの憧れの的でもある。


 この人を好きになっても、きっと。



 タクシーを降りて、当然のように課長を支えながらマンションへ入る。6階建てのセキュリティ万全のマンションだ。エレベーターで5階へ行き部屋の前まで歩く。

 さすがにこの先は無理だよね、課長のプライベートだもん。


「課長、あとは歩けますか?」

「……無理かも、良かったらベッドまで連れてってもらえる?」

 身体中の血液が沸騰しそうになるが、努力して冷静を保つ。課長は私が同性だから安心して頼んでいるんだ、私が邪な気持ちを持ってるなんて知られてはいけない。

「はい」


「ジャケット、掛けておきますね」

「お水、飲まれますか?」

「あとは、着替え? は、出来ますよね」

 お世話する事で気持ちを紛らわし、変な気を起こさないよう努めた。

 許可を取りながら、クローゼットからハンガーを取り出したり、冷蔵庫からお水を持ってきたり、動いていればなんとか持ち堪えられた。

「うん、それくらいは出来……うわっ」

「あぶなっ」

 着替えの途中で何かを取ろうとした課長は、バランスを崩して倒れた。まぁ、ベッドの上だったから良かったのだけど。良くなかったのはベッドと課長の間に私がいたこと、つまり課長に押し倒された形となっている。

 そして、何故か課長の顔が近づいてくるーーやばいよ、このままじゃーー私はギュッと目を閉じた。

 あれ? 何も起きなかったのでゆっくり目を開けると、至近距離に課長の顔があって、悲しそうな目をしていたから。


 私は、課長にキスをした。

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