第40話

 いつものクセで課長の席を見てしまうが、当然ながらそこには誰もいない。

 寂しいけれど、チャンスでもある。課長がいない間に少しでも成長して挽回したい。


 メッセージを送れば、すぐには無理でも返事はくれるし、地元の名物やお魚なんかの写真を送ってくれたりする。なんでも新鮮でびっくりするくらい美味しいらしい。

 時間が合えば、電話で話もする。仕事の話や職場の人たちの話が多いけど、声が聞けるだけで私は嬉しいし、繋がっている実感がわく。

 課長の出張は、そろそろ1か月が過ぎようとしていたが、進捗状況はわからない。いつ帰ってくるのかも……私には待つしか出来ない。

 見惚れる対象がいないから、仕事には集中出来る。でも前に課長にも言われたっけ、ずっと集中していたら疲れてしまうと。メリハリが大事、息抜きも必要なこと。


 今日は久しぶりに同期が集まるというから私も参加をした。軽く飲んで一次会で帰るつもりだが。

「あれ、小林さんじゃない。久しぶり」

「あぁ山本さん、良かった知っている人がいて」

 小林さんとは、入社直後の研修で一緒になって仲良くなった。配属されたのは経理部だった筈。あまりこういう飲み会には参加しないイメージだったが。

「仕事の方は忙しい?」

「月末や年度末はかなりね、今ようやく落ち着いたところ」

「そっか、それで今日は参加出来たんだね」

「それもあるけど、このお店の料理美味しいから」

「うん、そうだね。確かに美味しい」

 そういえば今日はいつものお店とは違う。美味しい料理は人を楽しませ、幸せにする。周りを見渡せばみんな笑っている。


「山本さん、私これから人と会う約束があるからちょっと早いけど抜けるね」

 小林さんが帰り支度を始める。

「そうなの? 私も帰ろうかな、一緒に出てもいい?」

 なんだか無性に雛子さんと話したくなって、早く帰りたくなった。

「いいよ、こっちもその方が助かる」


 小林さんは駅で待ち合わせていると言うので、私も駅まで一緒に歩いた。

「あ、もういる」

 小林さんの視線の先にいる人、あれって……

「もしかして、岡林さん?」

 実際に会った事はないけど社内報で写真を見ていたから、たぶんそうだと思う。

「そうだよ、知ってる?」

「ううん、面識はないんだけど……ねぇ、挨拶だけしてもいい?」

「うん、もちろんいいよ」


「岡林さんですよね、あの、先日はご迷惑をおかけしました」

 説明をすっ飛ばし謝るだけの挨拶となってしまったのは、近くで見つめた時のオーラというか圧というか、要するにテンパってしまったんだと思う。

「もしかして、飯田さんのチームの子?」

 それなのに、嫌な顔もせずにこやかに対応してくれて、察してくれるあたりは流石だ。

「はい」

「なるほど、聞いてた通りだわ、ねぇ今日は三人で飲まない?」

「え? いいんですか? いいの?」

 二人を交互に見るが、二人とも同じように頷いてくれていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る