第41話
三人で近くのバルへ入った。半個室になっていて店内の雰囲気も良い。
飲み物とおつまみを頼んだ後、岡林さんが席を外した時に小林さんに尋ねる。
「ねぇ私、本当にお邪魔じゃないの?」
「え、なんで?」
「だって、二人で会う約束してたんでしょ?」
「うん、でも別に二人きりじゃなくても全然いいし。それになんかね、あの人山本さんに興味ありそうだったし」
ふふって意味ありげに笑われる。
「ふぇ?」
「大丈夫、私が山本さんの貞操は守ってあげるから」
今度はニヤリとしっかりと口角が上がった。
えぇっと、岡林さんていったい……
「ちょっと、人たらしみたいに言わないでくれる?」
「違うんですか?」
「違うわよ、人に興味があるだけよ」
戻ってきた岡林さんと小林さんの掛け合いが始まる。
「嘘、この前はしっかり飯田さん口説いてたじゃないですか」
「あぁ、あれね。秒で振られたわね」
なんて?
「あ、あのーー」
「ごめんね、山本さん。まずは飲もう」
「そうね、乾杯」
「あ、はい」
「何の話だっけ、あぁ飯田さんの魅力について?」
しばらくとりとめのない話をした後に、唐突に話題にのぼったのが雛子さんで。三人ともいい感じにアルコールがまわっている。
「少し冷たい感じはしますよね」
あまり関わりがない小林さんの意見は、他の社員からも聞いたことがある。でも綺麗よね、と小林さんが呟く。
「ああ見えて凄く優しいんだよ」
仲の良い部下としては、本来の雛子さんを知ってほしい。
「ガードは固いのよね、私なんて連チャンで振られてるもの」
な、なんて?
「岡林さん、いつの間に?」
諦めも肝心ですよ、と冷めたふうに諭す小林さんの落ち着きようったら、とても私と同期には思えないのだけど。
「ほら、この前貴女の失敗を謝りに行った時と、つい最近よ」
「あぁ、その節はお世話になりました」
そう、あの時雛子さんと一緒にお詫びに行ってくれたのはこの岡林さんで。ん? つい最近とは?
「あの、課長は今長期出張中ですけど」
「あれ、帰ってきてたでしょ?」
小林さんまで、そんな事を言う。
「嘘、いつ?」
「月末に一旦帰ってきて、すぐに戻ったみたいよ」
「会社に来てた?」
「ほら、経理は月末に締めるからさ。
「来てない」
会ってない、見てない、連絡さえ……なかったよ。なんで?
1番仲の良い部下というポジションだと思っていたのに、帰って来てたのさえ知らないって、どういうことなんだろう。
「山本さん、大丈夫? 飲み過ぎじゃない?」
「全然飲んでませんけど」
「うわ、やばっ」
「大丈夫です」
「大丈夫じゃない人に限ってそういうこと言うのよね」
何を勝手な事を言っているんだ、この二人は。私は全然酔ってなんかいないのに、全く失礼しちゃう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます