第42話
だいたい、雛子さんが1番悪いんだよ。一時的にでも帰ってくるならくるで言ってくれればいいのにさ。連絡もないって……私には会いたくないってこと? もしかして、本当は、この前のミスで出来ないやつって思われちゃったのかな、嫌だな、だったらいっそ怒ってくれたら良かったのに。あんなに優しくされたら勘違いしちゃうよ、だってギュッて抱きしめてくれたじゃない、私まだあの時の温もり覚えてるんだよ。
「好きなの?」って誰? あぁ小林さんかぁ、好きだよもちろん。あぁそうだ岡林さん、私の雛子さんにちょっかい出さないでくださいね、「冗談よ」って冗談でも何でも口説いたら怒りますからね。なんて、本当は私がこんなこと言える立場じゃないんです、全然相手にされてなくて。好きって言っても「ありがとう」とか「知ってる」とかって、ヒラヒラとかわされるだけで私の気持ちなんて気付いてないんだ。あぁもう、だんだん腹が立ってきた。雛子さんのばかぁ。
え、本当の気持ちを言ってみたらって?
そりゃぁ好きだよ、大好き、ずっと前から好きだったんだもん、ずっとずーっと一緒にいたい、会えないのは寂しいよ、だから早く帰ってきてよ、雛子さん。
なんだか雛子さんの声が聞こえた気がする、好きすぎて幻聴が聞こえたのかも、雛子さんの声ね心地良いんだよ、なんだか眠くなってきちゃったな。
「あっ」
目が覚めると同時にズキンと頭が痛んだ。
「起きたの?」
「あれ、小林さん? 私なんで……ここ小林さん家?」
「そうだよ、飲ませ過ぎちゃってごめんね」
「いやいや、私の方こそごめん、寝ちゃった……あいたた」
「あぁ、二日酔いだね。ところで、どこまで覚えてる?」
「ん?」
小林さんの顔を見ると、あれ私何かやっちまったのだろうか、嫌な予感がした。
というか、小林さんの家へ来たことすら覚えていないんだから、相当迷惑をかけたんだろう。
「迷惑かけた、よね? ごめんね」
「そうだよね、覚えてないよね、うんわかった。まぁシャワーでも浴びておいで、私は朝ごはん作っておくから」
「ありがとう」
なんだか気になる言い方だけど、ありがたくシャワーをお借りする。
「ごゆっくり」
熱めのお湯を頭からかける。血液が全身を駆け巡るようなイメージで、気分が少しだけスッキリする。
ん? チリチリと耳の後ろの方から音がする。いや違う、音じゃなくて何かが気になる。思い出せそうで出せない記憶。うーん、しばらく考えてみたが無理そうだ。ま、きっとそのうち思い出せ……え、あれ? えぇーーちょっと待って、嘘でしょ、そんなことってある?
思い出した、ような気がする。嘘であって欲しい記憶。シャワーは切り上げてサッと拭いて服を着て出る。
「あれ早いね、もう出たの」
小林さんがキッチンから声をかけてくれるが、それに答えるよりも先に目的の物を探す。あれ、どこ? あった! スマホの履歴を見る。
まじか……
「山本さん、大丈夫?」
頭を抱えて動かなくなった私を心配する声がする。
「小林さん、私ーーどうしよう」
「あぁ、思い出したんだね。一緒に対処方法考えようか」
落ち着いた声音の小林さんがいたから、私はパニックになりながらも……なんとか自分を保てたのかもしれない。
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