第6話
いつも通り、部長は挨拶をしたら帰っていった。挨拶もごく短くて好評だ。そりゃそうだろう、誰だって意味のわからない長ったらしい話なんて、飲み会の前に聞きたくもないもの。
部長はああ言ってたけれど、私は仕事が順調ならばプライベートはどうだって良い。というか、こんな仕事だけのカラカラに乾いた女に言い寄ってくる物好きなんていないでしょ。
ゆっくりと周りを見渡す。
若い人たちが楽しげに寛いでいる。みんなが楽しくて、それで仕事への活力になるのなら万々歳だ。
そんな私でも20代の頃に一度だけお付き合いをした男性がいる。あれを恋愛と言っていいのかどうかはわからないけれど。お互い探り合いながらの駆け引きだった気がする。私は恋愛自体がピンと来ていなかった。決定的だったのは初めてキスをされた時だ、あれは……嫌悪感だった。突然だったから驚いたことにして濁したけれど、それからすぐにお別れをした。あれ以来、男の人が苦手になったことは部長にも内緒にしている。特に、不意に触れられることがどうしても駄目になっていた。
「ーー僕のお酒が飲めないって言うんですか?」
ぼんやりしていたら、そんな風にお酒を勧めてくる若い子がいた。
えっ、私に?
勇気があるというか、空気が読めないというか。周りから心配そうに見られているのも感じたので、仕方なく飲んであげた。一気に。
ふぅ、顔をあげて息を吐く。
周りはホッとしているようで、勧めた当の本人も嬉しそうに笑っていた。爽やかなイケメンは、若い子にモテそうだ。
さぁ、そろそろ帰ろうかと立ち上がった時、違和感を覚えた。
最近は飲んでいないとはいえアルコールに弱いわけではない筈。一杯で酔うなんてそんな筈ないわ気のせいよね。ドアに向かって歩いていく。
あれ? なんで?
足がもつれた。
不意に腕を掴まれた。
途端に血の気が引いた。
誰か、助けて!
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