第7話

 気がついたら誰かに支えられ歩いていた。不思議だった。他人がこんなにピッタリくっついているのにーー肩を貸して貰っているのだから当然だけれどーー嫌な感じがない、寧ろ心地良い。

 外に出て風に当たると幾分気分が良くなった。ベンチに座るとスッと涼しくなったーーあぁ、離れてしまったからか。私を今まで支えて歩いてくれていた人を見る。確か去年入社した山本さん。

 彼女は謝っていた、お酒を勧めたのが同期だからと。その口ぶりに仲が良いのが窺えて、そうね二人お似合いねと言おうとして胸の奥がキュっとなった。

 もう大丈夫だから中に戻って楽しんでと言ったのに、彼女は私と自分の荷物を取って来て一緒に帰ると言う。

 申し訳ない気持ちと嬉しい気持ちが交差し、後者の方が断然多いことに自分でも驚いていた。



 不思議だった。

 人に頼らず生きてきたつもりだった。一人で何でも出来ると思っていた。

 実際やろうと思えば出来るが、頼りたいと思ったのが彼女だったなんて。

 入社2年目ということは24歳か、若いなぁ、何を話せば良いかわからず無言で座っていた。タクシーが私のマンションへ着くまで。

 当然のように支えてくれる彼女に甘えてエレベーターに乗る。本当はもう酔いも覚めていて足の力も復活しているのだけれど、もう少しあと少しこのままでいたい……なんて思ってしまったものだから。

 後は歩けるかと聞かれ、ベッドまで連れて行って欲しいなんて言ってしまう。よく考えたらこれってセクハラ? いや、同性だからパワハラかモラハラ? いずれにしても良くないわよね。

 すっかり信じている彼女は色々とお世話を焼いてくれて本当に良い子だ、それは以前から感じていた。職場でも細かいことに気がついて誰よりも動いてくれるから、いつも周りに誰かしらいて人気者なんだと思う。

 お礼を言って、もう帰ってもらおう。私のエゴに付き合ってもらっちゃってごめんなさい、そう心の中で謝って着替えも自分で出来るからと、ヘッドボードに置いてあったヘアゴムを取ろうとして事件は起きた。

 これは本当にわざとじゃないのよ、事故だから。

 彼女を押し倒す形の体勢で誰にともなく言い訳をするがーー何故こんなに彼女に惹きつけられるのだろう。

 はっ、危ない危ない。もう少しで本気のセクハラするところだった。

 我にかえって、彼女から離れるーー筈だった。

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