第50話
「うわ、思ってたより立派」
雛子さんから送られてきた地図を見て着いた場所で、私の口から漏れた言葉。
ちゃんとした美術館の一角で催されているようだ。
「本格的なんですね」
雛子さんと合流して入場、大きなパネルの写真が所狭しと飾られている。
「まぁ、多少は名前も売れてるみたいよ」
「凄いですねぇ」
最終日の夕方ということもあって、私たち以外には誰もいなかったため、こっそりと手を繋いで見てまわった。
「写真集も出てるんですね、買おうかな」
出口付近の物販のコーナーにはお手頃な写真集も販売されていた。
「そんな気を使わなくていいよ、見たければ家にあるから見せてあげるし」
「雛ネェ! 来てくれたんだ」
「あぁ、祐ちゃん」
「初日に来なかったから、今回は会えないかと思ってた」
「ごめん、長期出張だったの。間に合って良かったわ」
「いつもありがとうございます、ってあれ?」
祐ちゃんと呼ばれていた、おそらくはこの個展を開き、この写真集を出している人で雛子さんの従姉妹であろう人が私に気付き、頭を下げた。
つられて私もペコリと会釈をする。
「雛ネェの……?」
「会社の部下で、私のーー」
「雛子さんにはいつもお世話になってます」
三人が三様で話し始め、お互いにクスクスと笑い合う。
祐さんは何故か雛子さんに笑いかけながら「可愛いねぇ」と言った後私を見て尋ねる。
「お名前は?」
「山本です」
「じゃなくて、下の」
「小春です」
「小春ちゃん、うん、名前も可愛い。こはるって呼びにくいから、はるちゃんでいい?」
「え、あ、はい」
とてもフレンドリーで、悪く言えば軽薄そうな、でも嫌な感じではなくて。ただ、雛子さんを見れば眉間に皺を寄せていた。
雛子さんは祐さんに詰め寄って何かを言っている。
「祐、この子はやめてよ!」
「なにが?」
「可愛い子見るとすぐ口説こうとするんだから」
「そんなことしないよ、だってこの子、雛ネェのーーでしょ?」
「あ、うん。まぁ」
雛子さんが私を見た。
何か、目で訴えているみたいだけど、どうしたんだろう。
「祐、ちゃんと紹介するわ。小春は私の彼女だから、よろしく」
えっ、雛子さん、いいの?
「雛ネェ、おめでとう! ようやく春が来たんだね」
「うるっさいわ」
戯れあっている二人を見て、私も嬉しくなって思わず笑ってしまった。
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