第45話

「とりあえず、お腹空いたからご飯食べに行こうか」

「はい」

「何食べたい?」

「前に連れて行ってくれた定食屋さん、雛子さんの行きつけのお店が良いです」

 二人で初めて行った思い出のお店だ。


 少しの間の後、雛子さんも頷いた。

「私もそこに行きたかったの」

「ですよね、長期出張の後には懐かしい味が食べたくなりますよね」

 雛子さんが私を見つめる。

 あれ、私何か変なこと言ったかな。

「そうね、行きましょうか」

 大丈夫らしい。


「まずは、ちょっとだけ仕事の話するね。あ、食べながら聞いてーー今度ね、新しいプロジェクトが始まるの。まだ打診の段階なんだけど、小春、そのチームに入る気はない? 今までより忙しくなって残業も増えるとは思うんだけど、どうかな?」

「私が……ですか」

 思わず箸が止まる。

 こんなの、食べながら聞ける話じゃないよ。

「すぐに返事しなくてもいいから、ゆっくり考えて」

 あんなミスをしたばかりなのに、雛子さんは私を推薦するというのだろうか。

「私なんかで良いんでしょうか?」

 そう言うと雛子さんの表情が曇った。

「なんかなんて言わないでよ、私は小春を正当に評価しているつもりよ。ずっと職場を離れてたけど報告は来てるわ、小春があの後も積極的に仕事してること。ミスして臆病になるどころか大胆になってる、且つ丁寧な仕事だって評判よ。それにさっきのーー」

 雛子さんも箸を置き、一口お茶を飲んで続ける。

「さっき、何を食べたいか聞いた時ね。私が食べたいだろうって推測してお店を選んでくれたでしょ。そういう、相手の気持ちを察して対応する能力、この仕事に向いてると思うの。私は自信を持って推薦出来るわ」

 感無量だ、雛子さんにそんなふうに言ってもらえて、こんなに嬉しいことはない。

「あ、ごめんね。お説教みたいになっちゃった、まぁ一度考えてみて。さ、食べよ」

 残りの食事を食べ始める。さっきより美味しいと思うのは気のせいだろうか、食事を終えたら返事をするつもりだ。私の気持ちは既に決まっているのだから。

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