第47話
こんなことってある?
信じられなかった、こんなに嬉しいことがあってもいいの?
思考は完全に停止して、涙が溢れ出した。
「あらあら、ティッシュ……じゃ追いつかないわ、タオル持ってくるね」
「うぅ、雛子さん」
「答えはYESって思ってもいいのかな?」
私は頭をブンブンと縦に振る。
雛子さんはタオルで、涙なのか鼻水なのかわからない液体を優しく拭いてくれる。
あれ、今私って……
「やだ、酷い顔してるから」
見ないで欲しい、思わず手で顔を隠す。
「そんなことない。これも小春の素顔でしょ、可愛いよ」
「うぅ雛子さん、狡い」
「知ってる、嫌いになった?」
「なりませんよ、好きです」
「ん、私も好きよ」
もう、まただ。
せっかく落ち着いた涙がまた崩壊する。
「あら、替えのタオルが要るかしら」
本当に雛子さんは狡い、こんなの絶対に嫌いになれないやつじゃないか。
涙が落ち着いて、目が腫れるといけないからと冷やすために保冷剤を渡された。
「明日が休みだったら良かったのにね」
そうなのだ、明日も仕事なのだからそろそろ帰らないと雛子さんにも迷惑がかかる、でも……
「どうする? 帰るならタクシー呼ぶけど」
「……もう少し一緒にいたい」
私の素直な気持ちを口にすると、少しの沈黙が降りた。
「あ、変な意味じゃないですよ」
慌てて訂正すれば、ふっと穏やかな笑みを見せる。
「ん、わかってる」
あの時とは違う。
二人でゆっくりと築いてきた信頼関係があり、お互いの気持ちが分かり合えるのだろう。
「今夜は泊って、明日一緒に出ようか」
「はい」
「そうと決まれば、お風呂入ってきて!着替えは適当に見繕って置いておくから」
と、脱衣所へ連れて行かれる。
鏡に映る自分の顔、やっぱり目は腫れているが。
じわじわと込み上げてくる波がある、誰かに自慢したいような誰にも教えたくないような。付き合って欲しいって言われちゃったんだよ、雛子さんが恋人、彼女、パートナーなんだよぉ、あぁヤバい、私は幸せだぁ。
「小春、何やってるの?」
タオルと着替えを抱えた雛子さんが立っていた。
拳を握りしめ振り上げようとする私を不思議そうに見つめていた。
「あ、えっと、じゃんけん?」
「一人で?」
「れんしゅう?」
何言ってんだ、私は。
雛子さんの端正な顔が崩れた。
ククっ、ぷぷっ、あはっ……
最初は我慢してたようだがツボに入ったらしく爆笑された。
なかなか収まらず、ダメだ腹筋が痛いと言いつつ、タオルと着替えを置いて出て行った。
恥ずかしさもあるけど、雛子さんがあんな風に笑うのを初めて見たから嬉しくなる。
まだまだ知らない雛子さんの顔を、もっともっと知りたいと思う。
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