第20話

 私も一旦ホテルの部屋へ戻り、シャワーを浴びてから街に出る。

 地方都市よりも少しだけ田舎の街、少し足を伸ばせば温泉街もあるらしい。

 一軒の小料理屋を見つけたので入る。名物の山菜が美味しそうだったので、天ぷら定食を注文する。

 うん、美味しい。このサクサク感は家ではなかなか揚げられない、何かコツがあるのだろうか。

「お隣り、いいですか?」

「あ、どうぞ。って氷室さん?」

「ホテルの人に勧められたお店へ来てみたら、課長もいらしてたんですね」

 美味しそうですね、と言って自分も同じものを注文する。

「あ、いいの? 一緒に食べても」

 彼女さんに怒られるのでは?

「たまたま同じお店に来ただけですから、許してくれると思います」

「そう、それは良かったわ」


 お店を後にしてホテルまで二人で歩く。私にはずっと気になっていることがあった。

「氷室さん、不躾な質問していいかしら、答えたくなければいいから」

「はい、何でしょう」

「恋人さんはいくつ?」

「2歳下なので22歳ですね」

「そう、そうよね」

「どうしたんですか?」

「もし仮にね、かなり歳上の女性ってどうなのかなって」

「かなりっていうと?」

「さすがに20歳離れてると恋愛対象にはならないわよね?」

 うーん、と氷室さんは目を閉じ黙り込んだ。そしてふふッと笑って目を開けた。

「天寧を20歳老けさせてみたけどやっぱり可愛い、アリだね」

 質問に対する答えというより、呟きのようだった。

「えっと?」

「あぁ、そんなの好きになったら関係ないと思います、歳の差だって性別だって」

 そう言い切る氷室さんは、とても頼もしくみえた。


「私、ちょっとお土産見て行きますけど」

「私も部署のみんなに買うわ」

 ホテルの売店で見繕う。氷室さんは恋人へのお土産をどれにしようか悩んでいる。

「やっぱりここでしか買えない名物がいいかなぁ」

「これはちょっと渋いか」

「あ、それいいですね」

 私が手に取ったものを覗き込んで言う。

「そ? ちょっと地味じゃない?」

「食の好みはそれぞれですけど、私は好きですよ」

 若い子にも喜んでもらえるだろうか?


 やっぱり私の脳裏にチラつく顔があった。

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