第五章 銀髪美少女よ、頼むから離さないで
第50話 いい人止まり、異界に乗り込む①
その世界は、まさに異界と呼ぶに相応しいものだった。
降り立った場所は、血痕のように赤い花が咲き乱れているのに、少し視線を遠くにやれば、その先に広がるのは波立つ海、荒涼の砂漠、はたまた雪原……
空にはなぜか、扉や窓が並んでいる上、複数個の太陽が地上を照らしている。
目を疑うほど美しい、混沌――
隣から再び聞こえ始めた嬌声を聞き流しながら、その異境を眺める。
「ン……ハァ……♡ 素敵でしょ、アタイの国……♡」
ピルィーは喘ぎながら自慢してきた。
「おう……ゴチャゴチャしてて落ち着くよ……」
「ンッ……♡ じゃあ、女王様のとこまで案内してあげるわ……♡ ついてきて♡」
言うなり、ピルィーはオレたちのことなどお構いなしという様子で飛んでいく。
この見るからにヤバそうな土地で、置いていかれるのは絶対に避けたい……
オレは燐と顔を見合わせ、急いで彼女の光跡を追いかけた。
◇
このカオス世界は、そこかしこに人間界を模したような建物が建っていて、ミニチュアの街が形成されていた。
建造物の中や周囲には光が踊っているように見えたが、それは全てピルィーに似た小さな妖精たちだった。
彼らは一様に、人間の真似事をしていた。
チャペルでは結婚式、墓地では葬式、神社ではお祭り、路地裏では殴り合い、ハートマークのついたホテルでは……まぁなんかそういうのだ。
理解できないのは、妖精たちは、その場を互いに行き来し合って楽しんでいることだった。
先ほどまでは墓の前で泣いてたのに、そのすぐ後に流血するほどの喧嘩を楽しんでいたりする。
コイツらの倫理観はどうなってんだ……?
眉をひそめながらピルィーについて歩く。
「あっちだよ。女王様はあっち」
指差す方角とは違う向きへ飛んでいくピルィーの背中を追う。
ミニチュアな都市を越え、真っ赤な花が一面に咲き誇る土地を抜けると、唐突に雪景色になった。
「綺麗……」
燐が隣で呟く。
地平線の彼方まで広がっていそうな一面の白は、荘厳ささえ感じさせる絶景だった。
が、すぐに違和感を覚える。
白雪は、空から降るのではなく、地面から昇っていたからだ。
よく見るとその正体は雪ではなくタンポポの綿毛のようなもので、それらがオレの体をすり抜けて、上空へと帰っていく。
オレは驚くことに疲れた。
なんていうか、実害がなければ、なんでもいいわ……
ピルィーに従い、白い土地のド真ん中に据え付けられた綿毛の階段を上がっていく。
すると、上り切った先に、人が何人寝れるんだというほどの巨大すぎる天蓋つきベッドが現れた。
ピルィーの説明がなくても、直感できる。
ようやく、オレたちは辿り着いたんだ。
怪異の震央。
ファンタジーの根源。
燐の苦しみを産む者のもとに……
「ここが王様用ベッド。女王様の寝床よ!」
その寝具の上には――輝くような金髪の女性が寝入っていた。
――――――――――――――――――
次回、いい人止まりが女王に謁見します。
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