第4話 いい人止まり、北欧系ギャルを押し倒す③


 オレは慌てて体を起こし……眼下の光景に息を呑んだ。


 傷んだ白銀の髪が広がる、その真ん中で。

 色素の薄い瞳孔が、オレを見つめ返していた。


 あれだけオレをからかっていたくせに、今、オレの下に寝ている彼女は、不安と期待がないまぜになったような色をその瞳に宿している。


 な、なんて綺麗な……ってダメだダメだ!


 オレは慌てて飛び起きた。


 な、なんだ今の……⁉︎

 

 オレは汗を拭う。

 

 今の転びかたは、物理的にどう考えてもおかしいだろ……!

 なにもないところで転んで押し倒すなんて、なんかご都合的な力が働いた気がするぞ。

 そう、まるで誰かがオレを転ばせたいと思ったような力だ……


 燐が、草の上からおずおずと起き上がった。

 頬は上気したままだ。


「あの……」


 そんな乙女な表情をしないでくれ。

 頭がおかしくなる……

 昨日からずっと刺激され続けて、オレはもう本当に、我慢ならなかった。


 オレはついに燐の前に手をもってくる。


「あっ……」


 そのまま自分の鼻を覆った。


「うぇっ! もう、臭すぎる……!」


 オレは、美少女と匂いのギャップについに我慢していた言葉を漏らした。


 くっさい美女って、なんなんだよこの特殊フェチは!

 誰が喜ぶんだこんなもん!

 

 オレの反応に、燐はぷくーっと頬を膨らませた。


「ちょっと〜! 酷くな〜い?」

「お前……ほんと何年風呂入ってないんだ……本当に鼻がひん曲がる……」

「えぇ〜、たった三週間だし」

「三週間⁉ 一刻も早く風呂入れ!」

「えぇ〜、だってお金ないし〜」

「んじゃ、せめてタオルで体拭け」

「やだ〜、最近水冷たくなってきたんだもん」

「……」


 福祉に繋げるとか後だ。

 まずはこいつを清潔にする。


 しばらく睨み合っていると、燐が不意に薄い唇に指を当ててニヤッと笑った。

 

「そうだなぁ……お風呂貸してくれるなら、入ってもいいかな〜?」

「は……? え、うちの?」

「うん」

「いやムリムリムリ!」


 手を振って否定する。

 それだけはマジでない。


 だって、オレは男子寮生なのである。

 女人禁制の地の風呂に、こんなナイスバディを連れて行くことなど言語道断だ。裏切りであり、禁忌である。


「いやオレ、男子寮住みだからさ」

「やった、大きいお風呂だ〜!」

「そうじゃねぇ! 女子は入れないって言ってんだよ。貞操観念が小学生で止まってんのかお前」

「てーそーかんねんってなに?」


 オレは思わず目頭を押さえた。

 

「とにかく、無理だから。入れません」

「別に、窓とかからこっそり入れてくれればよくね〜?」


 きっぱり断ると、燐はわかりやすくぶーたれてみせる。


「できないって……ルール上無理」

「そっか〜。じゃあ、なすりつけるね?」

「なすりつけるってなにを……うわぁぁああ‼」


 フケの浮いた髪を突き出した燐が、こちらめがけて突進してきていた。

 三週間溜めた匂いと汚れが、オレに襲いかかる……!


 くんずほぐれつの死闘が続くこと、数十秒。

 オレはその激臭の前に、いつしか膝を折っていた。


 完・全・敗・北だった。



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次回、いい人止まりの目の前で、北欧系ギャルが全裸でシャワーを浴びます。

 


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