第3話 いい人止まり、北欧系ギャルを押し倒す②
次の狩り場とやらまで、公園の道を歩く間、燐は一度もオレを離さなかった。
豊満な上半身をすべて使ってオレの右腕にひっついてくる。
まるで、オレから片時も離れたくないかのようだ。
おかげで、オレは歩く度に、大ボリュームの魅惑の柔肉が腕にムニュムニュ押し付けられるのを感じることになる。
傍から見たら、超ド級バカップルである。
こういったお色気シチュエーションの場合、普通は、
「女の子の体って、こんなに柔らかいんだな……」
とか、
「童貞には刺激が強すぎる!」
とか、
感慨にふけるところだが。
オレの場合は、それどころじゃなかった。
ひとえに燐が臭すぎるからだ。
カースト最上位ギャル然とした外見からはまったくイメージできない匂いが、彼女がひとつ身動きするたびに振りまかれていた。
そこには、女の子の香りとか、シャンプーの匂いとか、そういうピンクで柔らかく生やさしいものは一切ない。
例えるならば、そう……犬を酢につけて放置させて腐った匂い。
しかし、それでさえ百分の一も言い表せていないだろう。
とにかく、一度嗅いだら忘れられない、本能に訴える匂いなのだ。
とはいえ、さすがに女の子に向かって「臭い」などとは言えない。
匂いを忘れようと必死なオレは、おかげでえっちな連続攻撃を食らっても、前かがみにならずに済んでいた。
強烈な体臭は、エロにも打ち勝つらしい。
全然知りたくない豆知識だった。
「初デートだね〜」
「初デートでゴミ漁るカップルがいてたまるか……」
オレの努力もつゆ知らず、燐は猫のようにあくびする。
隣に立ってみて初めてわかったのだが、燐の背は、大体、オレの肩を少し超える程度だった。
目を疑うほどの美人なせいで、なんとなくタッパがある印象を受けていたけれど、並んでみると案外小柄だ。
そういえば、オレの幼馴染も、横に並ぶと思ったより小さくて驚くことがあるな、と不意に思い出した。
どうやら、容姿の良さにはそういう効用もあるらしい。
「なぁ……」
「うん〜?」
「なんで、オレにベタベタしてくんだ……?」
俺の問いに、燐は不思議そうに瞬きする。
「だってあーしらカレシカノジョじゃん。とーぜんっしょ?」
「いやだから……そもそもなんでオレをカレシにしたんだってことだよ……」
「だっておにーさん、いい人だから。あーし、そういうのわかるんだ」
彼女は自信ありげに上目遣いする。
たしかに、オレがいい人であるのは、嫌になるくらい正しい。だから見抜いてると言えなくもない。
が……どうせコイツ、誰にでもそう言ってるんだろうな……
「あーし、いい人が大好きだからぁ――」
「お前、なんでホームレスなんかやってんだ?」
「……えっ?」
このタイミングで聞かれると思わなかったのか。
彼女の顔に焦りが浮かんだ。
「ま……まぁまぁ、いいじゃん。そんなことは〜」
「親御さんはどうしてんだ?」
「ん〜、どうしてんだろうね〜。わかんな〜い」
「役所とかには行ったのか? 問い合わせれば、助けてくれる施設とかあるはずだぞ」
「ふ〜ん、そ〜なんだ〜」
オレの腕を胸に抱きながらも、こちらにまったく目を合わさない。
オレは誠心誠意、想いを伝える。
「もし大変な事情があるなら、オレも力になるから。ちゃんと理由を話して――」
「そんなことよりさぁ。ちゅーしない?」
時が止まった気がした。
「……はぁ?」
「カレシとカノジョだから。ちゅーしよ、ちゅー」
「お前それ、まさか誤魔化してるつもりか……?」
「ちゅー」
燐は背伸びをして、オレに体重をかけてきた 。
薄桃色の唇が、近づいてくる。
野外生活のせいかだいぶガサついているが、それでも若さによってハリを保っているようだ。
オレは奥手童貞の精神力でそれから視線を逸らし、ついでに燐を腕から振りほどいた。
「んな不誠実なことはしない。話を逸らさないでくれ……」
「まぁまぁ。不誠実じゃないから、一回してみよって」
「しない!」
「ほらほら、ちゅー?」
「女の子がそんなことしちゃいかん!」
もはや積極的に唇を奪いに来ている燐を、オレは彼女の肩を押さえて遠ざけたつもりだった。
……果たして、どこでどう足がもつれたのだろう。
「うわっ……!」
オレは燐を掴んだまま体勢を崩し――雑草の茂る地面に倒れていた。
「あっ……」
下敷きにした少女から、小さな声が上がった。
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次回、いい人止まりが北欧系ギャルとくんずほぐれつします。
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