第2話 いい人止まり、北欧系ギャルを押し倒す①


 たしかにオレは恋人がほしいと願ったが。

 なんでもいいと言った覚えはない。

 

 臭すぎる告白から一夜明け。

 オレは再び憩いの丘市民公園に訪れていた。

 彼女の生活とか、どうして告白されたのかとか、色んな意味で不安すぎるからな。


 公園内の樹木たちは、赤や黄色に色づきはじめている。もうすぐ秋だ。

 そんな美しい光景の下、オレはホームレス北欧ギャルの揺れるケツを眺めていた。


 昨日と同じように、彼女はゴミを熱心に漁り中である。

 ゴミ箱に上半身を突っ込む豪快スタイルも健在。


 縁から突き上げられたケツが、ウィンドブレーカーのパンツをパツパツに張らせ、下着の線をくっきり浮かび上がらせている。

 

 この女、乳もデカければ、ケツもデカい。

 まったく、いかがわしいプロポーションである……

 体が野外生活向きじゃないだろ。


 オレは、誘うケツからなんとか目を逸らし、手元のビニール袋を見下ろす。


 なかに入っているのは、食べ残しの弁当、漫画雑誌、アルミの空き缶などなど。

 彼女の今日の戦利品である。

 公園に来て早々、オレはゴミ漁りを手伝わされているのである。


「はい、これも入れといて〜」

 彼女はオレのそばまでやってくると、ガラクタを袋に入れて、またゴミ箱に潜っていく。

 

 しかし、オレもいつまでも彼女の傍らで言いなりになっているわけにもいかなかった。

 

 まずは、彼女の素性を聞かなければ……!

 

 しっかり事情を聞いて、福祉に繋げる……!

 それが、いい人であるオレの使命……!


「なぁ、ちょっと聞いてもいいか」

「なにィ〜?」

「まずさ。君、名前は?」

「あれ、言ってなかったっけ、ウケる〜。たむらりんで〜す」


 天地逆さまになりながら、ピースさえしてくる。

 軽い。ギャルだ。


「たむらは普通に田んぼの村だけど、りんはなんか、画数多くて難しいやつね。なんか、元素のPだって。それがなにかわかんないけど」


 逆さのままペラペラと話す。


 元素のP

 リン。

 燐。


 田村燐……


「え……? ていうか、日本人なのか?」

「うん〜。六歳からこっちいるから、ほぼ日本人? つか、おじいちゃん日本人だし」

「クォーターってやつか」

「ん〜」

「了解した。あー、田村さんってさ――」

「ちょw おにーさんカノジョのこと苗字で呼ぶ系? ウケるんだけど! 名前で呼んでよ」


 ゴミ箱のなかから明るい笑いが響いてきた。

 そもそもそのカノジョっていう設定に関しても言いたいことはあるんだが……


 オレは仕方なく、その恥を受け入れる。

 陽キャと話すときは、とりあえず乗せておいたほうがスムーズに進むからだ。


「えーっと、り……りんって、いくつなんだ?」

「上から90、58、86?」

「今、お前なに言ったんだ……?」

「イヒヒ。あーし、17だよ。学校行ってたら高二かなァ。留年してなかったらだけど」


 ヒヒ、と86の滑らかなヒップが笑う。


「お、同い年かぁ……」


 オレは頭を抱えてしまった。

 同世代だ、とは気づいていたが。

 具体的な年齢と聞くと、ますます現実感のなさに困惑する。


 現代の日本で、17歳でホームレスだって……?

 なにがどう転んだらそうなるんだ……


「あ、おにーさんもなん? 超ぐ〜ぜ……お、すご〜い! いい器だ! 誰が捨てたんだろこんなの。珍しいね〜、いやこれはいい器だ〜」


 燐は、興奮しながらゴミ箱から帰ってくると、


「これ持ってて〜」


 と、戦果をオレに手渡してきた。

 それは、どこがいいのかわからない、至って普通のプラスチック製の皿だった。


 使うんだろうか……

 使うんだろうな……


 オレは複雑な気持ちになりながら、それをビニール袋に追加する。


 燐は、オレの傍らから一緒に袋を覗きこむと、


「ん〜、大漁大漁」


 と言って、オレの腕に自分の両腕を絡めてきた。

 

「え、なに⁉」

「なにって、次の狩り場に行くから案内したげるの」

「え……お前、ゴミ箱のこと狩り場って言ってんの……いやていうか、そうじゃなくて!」

「出発しんこ〜!」


 燐は拳を突き出すと、反対の手で無理やりオレと手を繋いで歩き始めた。

 

「あ、ちょ、おい!」


 オレは焦った。

 

「お前、この手洗ってないよな⁉」


 

――――――――――――――――――


次回、いい人止まりが北欧系ギャルとイチャイチャします。



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