第5話 いい人止まり、北欧系ギャルを風呂に入れる①


 一体全体、どうしてこんなことになったんだ……?

 シャワー室の入り口ドアにもたれかかったオレは、廊下に響く水音を聞きながら、改めて首をひねる。

 

 自ら騒動に首を突っ込んだ、という気はしない。

 

 ただ、公園にいた不審な少女を眺めていたら、カレシにさせられ、振り回され、頭皮の匂いをなすりつけられた挙げ句、シャワー中の見張りをさせられてるだけだ。

 

 騒動の主である銀髪外人美女ホームレスこと田村燐は、現在、オレの背後で数週間ぶりの湯を浴びているところだった。

 大浴場なんか貸せるわけないからシャワー室に突っ込んだが、おかげでドア一枚隔てた先に、同世代女子の一糸まとわぬ姿がある。


 そして、古い男子寮のシャワールームに、ドアの鍵など存在しない。

 

 ……試されてんのか、オレ?

 

 右腕には、ウィンドブレーカー越しの生々しい温さが、未だに残っていた。

 彼女の匂いだけはフラッシュバックしないようにしつつ、その感触を思い出す。


 あのときは臭さでそれどころじゃなかったが、思い返すと、オレの腕は彼女の丘と丘の間に『埋もれて』いた。

 男の腕を包み込んでしまうなんて、とんでもない豊かさだ。


 オレは周囲に誰もいないことを念入りに確認してから、密かに彼女が当たっていた部分を触ってみた。


「あれが九十……」

 

 感覚が蘇る……


「すごかったな……」


 柔らかさが蘇る……


 ――キュッ。

 

 蛇口を閉める音で、オレはギクッと我に帰った。

 な、なにもやましいことは考えてないぞ……! ただその、すごかったな、ってだけだ!

 誰に言い訳してんのかわかんねぇけどさ!


 シャワー室からは、ペタペタと歩く水音が聞こえてきた。


 どうやらシャワーを終えたらしい。

 無事に済んだ安心感にホッと息をついていると、すぐに背後の扉が開いた。


 き、着替えたにしては、早すぎでは……


 恐る恐る振り向くと、燐がドアの隙間から顔を出していた。

 銀の髪をボタボタと濡らして、垂れた水滴が雪のような素肌を滑り落ちている。


「ごめ〜ん、タオル持ってくるの忘れちゃったァ〜」

「え……は?」

「貸してくれな〜い? ビショビショでパンツも履けなくて〜」


 オレは思わず飛びすさった。

 なら今こいつ、全裸――ッ⁉


 無防備にも、彼女はドアから体を出しすぎて、谷間さえ露出していた。

 もう少しでも横にずれたら、もっと大事なものがこんにちはしてしまうだろう。


 し、刺激が……刺激が強すぎる……!


「履かないほうが好きなら、このまま出るけど〜?」

「い、い、今すぐ取ってくるからドア閉めろ!」


 オレは脱兎のごとく自室に駆ける。

 バスタオルを引っ掴んで迅速に戻り、シャワー室に突っ込んだ。


「あんがとっ」


 彼女は、ドア越しに受け取る際に、その濡れた指で俺の手にわずかに触れた。

 それがわざとなのかどうなのかは知らないが、それだけで、オレは頭がおかしくなりそうだった。


 手を少し先に伸ばせば、彼女の素肌に触れられる。

 それどころか、このままドアノブを引けば、全部があらわになってしまうのだ。

 

 マジでなんなんだ、このホームレス女!

 童貞には刺激が強すぎる……!


「……どしたの? 大丈夫そ?」


 燐がオレの目を上目遣いに覗き込む。より体勢が危うくなる。

 目のやり場に困っているオレに、燐は気づいたように手を合わせた。


「あ、一緒に入りたいのか〜!」

「なっ……んなワケあるか!」

「大丈夫、ほら遠慮しないで。あーしが体洗ってあげるから」

「う、腕掴むな! さっさと拭いて出てこい! 風邪引くぞ!」

「……んも〜、素直じゃないなァ」


 ドアが閉まる。

 途端、オレはまるで長距離を走った後のようにへたりこんでしまった。

 

 なんなんだよ、この北欧系ホームレス……

 臭さが消えたら、ただのえっち女じゃんかよ……



――――――――――――――――――

次回、いい人止まり、えっち女を部屋に連れ込みます。

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