第25話 いい人止まり、北欧系&幼馴染ギャルに取り合いされる②


 ニコニコしているおばさんに会釈したオレは、どこかに隠れたターゲット二人を探し始めた。

 

 恥かかせやがって、あの女ども……見つけたらただじゃおかねぇ……

 

 自然に鬼の気持ちになったオレは、公園内を恨みを込めて駆け回る。

 

 木の影。生け垣の隙間。トイレの裏。


 そもそも、物が少ないこの公園では、隠れる場所も限られているはずだった。

 それでも、二人の姿はなかなか見当たらない。


 おかしい……公園外がありとは聞いてないし……

 まさか、帰りやがったか……?


 オレは浮かんだ疑念に疑心暗鬼に陥り……ふと懐かしさにおかしくなった。

 

 かくれんぼの途中で勝手に帰られて、灯里が迎えにきてくれる。

 ずっと鬼にさせられてたオレに、わざと捕まりにきてくれる。


 どれも大切な、灯里との思い出だ。


 それを思い出すきっかけをくれるのなら。

 かくれんぼも……意外と悪くないかもな……


 古い記憶に浸るオレを呼び戻すように、突然強い北風が吹きつけた。


「寒……もう冬だな……」


 オレは雲の流れを追うように空を見上げて……ようやく気づいた。


 オレの横に立つ木の上。

 色とりどりの紅葉に紛れるように。


 枝の上に座った燐が、オレを見下ろして微笑んでいた。


「……見つけてくれたね」



   ◇



 灯里は、生け垣の裏でも隙間でもなく、中に潜り込んでいたらしい。

 彼女の制服には未だに土埃と葉っぱがついていた。

 花の現役JKモデルが、地べたに這いつくばってまで隠れるとは。


 高校生のかくれんぼ、本気すぎる……

 

 灯里は、オレたちの前に姿を表してからというもの、終始ぶすっとしていた。


「見つけてくれなかった」

「ごめんって……」

「もう一回やりたい」

「それは勘弁してくれ……」


 もうあんな恥はかきたくない。


「さァ、景品くん。こっち来て〜?」


 燐がオレを手招きする。

 それでようやく、オレはなにを賭けられてたんだかを思い出した。

 途端に全身が熱くなる。

 

「いや、行くわけないだろ」

「え〜? じゃあ、あーしから行こ〜っと」


 言うやいなや、燐はオレの懐へ一瞬で潜り込む。

 そして、オレの体を反転させると、ずいと前へと押し出した。

 ……灯里の方向へ。


 灯里は、献上品のように差し出されたオレと背後から押し込む燐を、訝しげに見やった。


「……なんでよ。アンタが勝ったんでしょ」

「さっき思い出したんだけどさ、あーし三日お風呂入ってないんだよね〜。だから、また嫌がられちゃうなァって」


 あっけらかんと答える燐に、オレは思わず眉をしかめてしまう。


 嫌がられてる自覚があるなら、毎日入ってくれ……


「だから、今回は灯里ちゃんに譲ってあげる〜」

「……そう。じゃあ遠慮なく」


 灯里は、顔に張り付いた黒髪を耳にかける。

 意味が分からなかった。


「じゃあ遠慮なく、じゃないんだよ。なにお前、熱でもあんの?」

「超平熱。ほら早く」


 整った薄い唇が近づいてくる。

 彼女が目を閉じると、その作り物のような端正さがますます際立つ。

 逃さないよう背後から押してくる燐と、催促するようにわずかに身を乗り出す灯里。

 美少女二人に挟まれたオレは、ありったけの精神力を振り絞って、必死に顔を逸らした。


「い、いやできねぇよ! なにこれ! ふ、不純だろ! ダメだこんなん!」

「……まぁ、だろうね」


 灯里は目を開けると、あっさりと言った。

 

 失望もなく、恥じらいもなく。

 まるでオレの行動を見越していたかのようだった。


 コイツら、揃いも揃ってオレをおちょくりやがって……


「……さて、私そろそろバイトの時間だから、帰る」


 灯里は腕に巻いた時計を見て告げる。


「お、おう……」


 オレは思い切りうろたえた。


 これがさっきまでキスをねだっていた人間か?

 感情のアップダウンが唐突すぎてついていけねぇよ……


「じゃ」


 オレに軽く手を上げて、去っていく。

 困惑するオレの横を過ぎ去り、燐も越えようというとき、灯里は燐をまっすぐ見て告げた。


「来たときも言ったけど。私、負ける気ないから。たとえどんなに同情の余地があってもね」

「わかった〜。でもね、灯里っち。そもそもなんだけど……」


 灯里の言葉を止めた燐は、寂しげに微笑んでいた。


「純くんはちょっと借りてるだけだから。すぐに返すよ」

「……どういうこと?」

「言葉通りだよ」


 オレは二人の顔を見比べる。

 また、二人にだけわかる会話を交わしている。


「じゃあ、また遊んでね〜」


 燐は再び快活な笑顔に戻り、灯里もオレたちに背を向けた。

 最後の最後まで、なんだか置いていかれた気分だった。


「ふぅ……よし。邪魔者もいなくなったところで、余った純くんのファーストキスはあーしが――」


 唇を尖らせる燐の頭を掴んでオレは押し戻した。


「……風呂に入れ」



――――――――――――――――――


次回、いい人止まりが北欧系ギャルに見つめられます。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る