第三章 美少女たちよ、頼むからオレの取り合いしないでくれ
第24話 いい人止まり、北欧系&幼馴染ギャルに取り合いされる①
燐と灯里と路上販売をした、その数日後。
オレたち三人は、再び公園に集結していた。
というより、灯里がオレたちのもとへ押しかけてきた、のほうが正確か。
「私、負けないから」
灯里は、ゴミ箱から顔を上げた燐を前に、いきなり宣戦布告をした。
いつからこの二人は勝負を始めていたのか。
どういう戦に対する宣戦布告なのか。
ゴミ漁りをする女は、既に色々負けてるんじゃないか。
オレの脳内にはその他様々なクエスチョンマークが飛び交ったのだが、燐は灯里の宣告を当然のこととして頷く。
「りょ〜。ん〜、じゃあゲームで勝ち負け決める〜?」
「は? ゲーム……? なにそれ。そんなので手を引けっての?」
「別に〜? ホームレスは暇なんだよ〜」
「……まぁいいや。なにで決めんの」
「待て待て待て待て」
勝手に話を進めていく二人の間に割って入る。
「なんでそんな話が進むんだ? オレを置いてかないでくれ」
逆になんで置いてかれてんの、とでも言いたげな二人の視線を受ける。
オレはまず灯里に尋ねる。
「お前、それ言うために来たの……?」
「そうだけど」
「わけわかんねぇ……」
次は燐に顔を向ける。
「なんでそんなノータイムで受け入れられんの?」
「だって、気持ちはわかるし?」
「マジか……わけわかんねぇ……」
オレにはなにが起こってるか、さっぱりわかんねぇ……
ともあれ、目の前で芸能人レベルの美少女二人がバチバチしているのは、壮観で見応えがあった。
互いに、美人度合いで言ったら対等に渡り合えるレベルであるので、相手にとって不足はない。
まぁ、体の一部については灯里の完敗だが……
「……なに。なんか服についてる?」
「いや、なんでも……」
オレは急いで絶壁から目を逸らす。
またご乱心になられたら、オレだけが敗者になってしまう。
「ん〜、なんのゲームにしよっかな〜」
燐は唇を尖らせて悩む素振りをみせてから、思いついたように言った。
「あ、じゃあ、ポッキーゲームでもしよっか〜」
「は? なんでアンタとそんなことしないといけないのよ」
「違うよ。純くんと」
「オッケー」
「オッケーすんな」
……なにこれ。
今日のオレ、ツッコミ役?
「え〜、ポッキーNG系〜? なら、王様ゲームは?」
「やる」
「なんでさっきから合コンのノリなんだよ。つか、灯里も即答すんな」
ツッコみながら目眩がしてくる。
実はコイツら、オレを困らせるために裏で示し合わせてたのか?
「純くんはわがままだなぁ〜」
燐はまるで駄々をこねる子供をあやすように言うと、
「じゃあ、かくれんぼして純くんに見つけてもらえたほうが勝ち。これならどう?」
と、指を立てて提案した。
「オレが鬼ってことか? まぁ、それくらいならやってやるけど……」
「勝った景品は、純くんのファーストキスね」
「なんでだよ!」
「乗った」
「乗んなよ!」
ていうか、しれっとオレのキスがファーストだって決めつけやがった、あのホームレス。
……正解だけどさ。
「でも、見つかったほうが勝ちなの? 隠れなければすぐに勝てるじゃない」
灯里が至極真っ当な指摘をすると、燐は軽く肩をすくめる。
「そこはほら、あーしたちも大人だもん。正々堂々、ズルなしで隠れよう」
「紳士協定ってことね。わかった」
そう言うと、灯里はオレをジッと眺める。
「な、なんだよ……」
「別に」
灯里はそのまま、背を向けて去っていった。
わかんねぇ……今日は一段とわかんねぇ……
呆然と突っ立っているオレに、燐が傍らに近づいてきて、コソッと耳打ちした。
「灯里っちは、『灯里〜愛してるぞ〜』って言えばすぐ見つかるよ」
「はぁッ⁉︎ 言うかよ!」
「え〜? せっかくヒントあげたのに〜」
イヒヒと笑って、灯里と同じ方向に歩いていく。
「あっちの木まで行って、三十数えてね〜!」
燐が遠くから叫ぶ。
指示に従って、オレは木の幹で顔を隠し、数を数え始めた。
「いーち。にー」
「純くん早〜い! もっとゆっくり、大きく〜!」
「……はぁ。いーーーち! にーーー!」
遠くで、枯れ葉を踏んで駆け始める二人の足音が聞こえた。
なんで高校生にもなってかくれんぼなんかやってんだ、という気持ちになりながら、オレは数を叫び続ける。
この公園に人気がなくて、本当に良かった……
人がいたら、恥ずかしくて死んでしまったことだろう……
「にじゅうきゅーーー! さんじゅーーー! 探すぞーーー?」
オレは木の幹から反転する。
するとそこには、犬を連れたおばさんがオレを見て満面の笑みを浮かべていた。
……し、死にてぇ。
――――――――――――――――――
次回、いい人止まりが二人を探します。
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