第48話 いい人止まり、北欧系ギャルにちょっと引く


 オレと燐は互いに顔を見合わせる。


 ついに見つけた……

 

 これが現実とは、にわかには信じられなかった。

 妖精が存在していることさえ夢だと思いたいのに、そいつらが燐を苦しめていた原因だって?

 

 いやでも……とオレは考え直す。

 燐の置かれた事情の特殊さを考えると、その荒唐無稽さは一周回って筋が通っていると考えられないこともなかった。


 ファンタジー的な問題は、現実的な存在には起こせないのだから。


「おい。今からする質問に答えろ、ピルィー」

「アタイの名前はエリリンよ!」

「……ピルィー。その女王って奴は何者だ」

「女王様は、アタイたちが住む妖精の国の国王様よ。いっちばん偉くて、とっても綺麗で、めっちゃくちゃビッチな全知全能のアマなの!」


 ピルィーは誇らしげに胸を張る。

 コイツ、意味分かって言ってるんだろうか……


「そのめちゃくちゃビッチなアマ女王が、燐になにしてんだ……」

「魔法をかけてるの! 誰もこの子のことを覚えていられないようにね! とっても強力で、女王様にしか解けない魔法よ!……あ、これも言うなって言われてたっけ⁉」

「次は魔法……」


 オレは呆れる。

 妖精だの魔法だの……

 ますますファンタジーだ。


「なんで燐にそんなもんかけんだよ……おかげでこっちは死にそうなんだぞ」

「そんなの知らないわ。女王様に直接聞きなさいよ」

「んじゃ、そいつはどこにいんだ」

「そりゃあ――」


 と言いかけて、妖精はハッと両手の拳を口に突っ込んでフガフガ言い出した。


「もうその手にはかからないわよ! この聞き上手野郎! コツメカワウソ! えっちさん!」

「えっち――お前、なんでその呼びかた知ってんだ……⁉」

「だって、アタイがずっと悪戯してたんだもの! あー楽しかった!」


 うっとり回想している。


 心当たりは大量にあった。

 不自然な体勢から燐を押し倒すことになったり、着替え中の燐の声がなぜか聞こえなかったり、閉めたはずの鍵が開いてたり……


 妙なことばかり起こると思ったら、全部コイツのせいだったのか。


「お前なにしてくれてんだよ……まあ、過ぎたことは怒らないが……」

「感謝しなさいよ」

「ありがとうございました」


 オレは素直に頭を下げた。

 脇で燐のジトッとした視線を感じるが、スルーする。


「で、どこに行けば会えるんだよ、お前らの女王には」

「女王様に会いたければ、私の口を開かせることね。絶対喋らないけどね。アタイの口は胡桃より硬いんだから」


 ピルィーはふんふんと鼻を鳴らす。


「どうやったら口が開くんだ?」

「それはね――あっ、ちょっと! 危うく引っかかるところだったじゃない!

「純くん……」


 呼びかけに振り返ると、燐が少し俯いてオレの服をつまんでいた。

 なんだか、久しぶりに声を聞いた気がする。


「あの……その子、アタシに貸して……話させるから……」

「え、んなことできるのか?」

「多分……」


 彼女は、コクンと頷く。

 なぜか顔が赤いのが気になるが……


「できるわけないじゃない! アタイの口はわらび餅より硬いのよ⁉」


 ほざき倒す妖精の身柄を燐に引き渡すと、燐は、

 

「純くん。その、耳塞いでて……」


 と言って、オレに背を向けた。


 ……その数秒後だった。


「……あ♡ ちょっと待って♡ やめて♡ そんなとこ触らないで♡ やだ♡ だめぇ♡」


 突然聞こえ始めた嬌声に、オレは面食らった。

 どう考えても、十八歳未満が聞いていい音ではない。

 

 公園中に響く喘ぎ声に、オレは落ち着かない気持ちでいると、彼女たちは再び帰ってきた。

 なにかを開始してから、まだ一分と経っていない。


 しかし、燐の手から解き放たれた妖精は、アクセサリーみたいに燐の頭にベッタリくっついていた。

 対して、真っ赤な顔をした燐はぶすっとしている。


「これで、なんでも話すと思うよォ……」


 不服そうに頭の上を指す燐に、オレは生唾を飲み込んでしまった。

 い、一体あの場所ではなにが行われていたんだ……


「早くしたほうがいいよ……妖精が正気に戻る前に……」

「あ、あぁ……おい、ピルィー」

「あぅん……♡」


 ちょっといやらしい声を出し続けてやがる……

 オレは正気を保つ努力をしつつ、尋ねた。


「お前の女王はどこにいる?」

「妖精の国の、王様用ベッド……」


 先程とは打って変わって素直に答えるピルィー。


「そこに行けば、女王に会えるんだな?」

「ん……♡ そうよ……」

「妖精の国にはどうやって行く?」

「それはアタイと……ハッ!」


 今まで燐の頭の上でとろんと幸せそうにしていた妖精は、突然正気に戻ったように怒り始めた。


「ちょっと……‼ アンタたちまたやったわねっ‼」

「妖精の国にはどうやって行く?」

「無視しないでよ! 女王様の忠実なしもべであるアタイが、これ以上楽しいお喋りするわけないじゃない!」

「え〜? ピルィーちゃん、お話ししてくれないんだ〜?」


 燐が怪しげな声を上げると、妖精が固まる。


「教えてくれれば、またシてあげようと思ってたんだけどな〜……?」

「妖精の国はあの丘のてっぺんから行けるわよっ‼ 案内してあげるっ‼」


 妖精は、勢い込んで飛び去り始めた。


 急に御しやすくなったな……

 本当に一体、なにをシたんだ……


 オレは燐と目を合わせようとしたが、彼女は赤らんだ顔を伏せて、一足先に妖精についていってしまった。



――――――――――――――――――


次回、いい人止まり、北欧ギャルと堕ちます。

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