第49話 いい人止まり、北欧ギャルと堕ちる


 キラキラ輝く鱗粉を散らして飛ぶ、この世のものならざるものをオレたちは追いかける。


 妖精のピルィーが向かった先は、誰も来ない市民公園の、さらに誰も注意を払わないような一角の隅。

 園内にあるなんの変哲もない小山のひとつだった。


 その頂上には、直径五メートル程度の、白灰色の輪が出来上がっていた。

 踏み倒されて白く枯れた草の跡らしい。

 輪の形状は不自然なほどの正円だ。


「フェアリーリングっていうの。夏至の日の夜にみんなで踊って作るのよ」


 ピルィーが自慢気に解説する。


「へぇ」

「あんまりアタイたちが楽しそうに踊るもんだから、たまに酔っ払った人間とかも混ざってくるのよ! そしたら、人間も一緒にみんなで踊るの! とっても素敵でしょう?」

「あぁ、そうだな」


 コイツに珍しく、まともな感性だ。


「アタイたちの踊り真似したら、人間の足の指なんか全部削れちゃうのにね! 本当おっかしいわよねー‼︎」


 そう言って腹を抱えながら頭上を飛び回るピルィーに、オレはドン引きしていた。

 幼女のような可憐な見た目が、今のオレには極悪の魔物に見える。


「さぁさぁ、輪っかのなかに入って。アタイが呪文を唱えれば、妖精の国への入り口が開くわ」

「足の指はなくならないよな……?」

「なくなったら買い足せばいいじゃない! 磯野、サッカーしようぜ! ボールはお前の目玉な!」


 オレは燐と顔を見合わせ、恐る恐るフェアリーリングの内側へ足を踏み入れた。

 あんな物騒な価値観を聞かされた上で、コイツに身を委ねなければならないとは……


「あ、そうだそうだ」


 ピルィーは、自分も輪の中に飛び込みながら、振り向いてオレたちに告げた。


「アンタたち、妖精の国に来るなら、必ず出れるとは思わないほうがいいわよ」


 またしても恐ろしいことを言いやがる……


「どういう意味だよ……」

「だって、アタイとはぐれたら迷子になっちゃうし。女王様がご機嫌斜めだったら、会った途端にアンタたちを牢屋に閉じ込めちゃうかもしれないわ!」

「んなことされたら溜まったもんじゃないんだが……」

「仕方ないじゃない、アタイたち妖精は気まぐれだもの! だまらっしゃい‼︎ 誰が気まぐれよ‼︎」

「……」


 とはいえ、オレたちはその妖精の気まぐれとやらを黙って受け入れる以外の選択肢はなかった。

 今まで危害を加えてきていた敵陣に乗り込むのだ。リスクがないはずはない。

 頭は混乱していても、本能は命の危機に緊迫し、交感神経を活性化させていた。

 

「純くん……本当に行くの?」


 声に振り向くと、燐がオレを不安げに見上げていた。


「なんだよ、今更。怖くなったか?」

「だって、純くんは関係ない」


 燐の眼差しが、真剣に訴えている。

 彼女が心配しているのは、オレのことだった。


「帰ってこれないかもしれないんだよ? なにが起きてもおかしくない。純くんは無関係なのに……そんな危険なところ、行く必要ない」

「なに言ってんだ。関係はあるだろ」


 オレは肩をすくめる。


「だって、オレはお前の彼氏なんだろ?」


 燐は、驚いたように目をパチクリさせる。

 しかし、オレに彼女に微笑みかけるような余裕さえなかった。

 

「今しかないんだ」


 超現実的な事情を抱える燐のそばに現れた、超現実的な存在……

 この機会を逃せば、再びこの生物に遭遇することは……恐らくないだろう。


 これが最初で、最後のチャンス……

 燐を死地に送り込んでオレ一人が危険を犯さないなど、できるわけがない。


「オレはお前を助けるって約束したんだ。だから、最後まで逃げない」


 もう、救えなかったなんて後悔はしたくない。


「あっそ。じゃ、真ん中に立ってー」


 冷たく一蹴したピルィーに促され、オレたちはフェアリーリングの中心へと向かう。


 歩む間、オレと燐は自然に手を繋いでいた。

 燐の右手と、オレの左手……

 絶対に離すわけにはいかない。

 離してしまったら、もう二度と会えない気がするから。


 オレたちが中心に横並びに立つと、前に飛び出てきたピルィーが、胸の前で手を合わせる。


「じゃ、開けるよー。トリェ・セヴィルュルー」


 両手を上げ、呪文らしきものを唱えた。


 ……何も現れない。


 いや、実際には既に現れていたのだが、てっきりそれは前や上から来るものと油断していたのだ。


 妖精の魔法は、オレたちの予想の下をいった。

 比喩ではなく、物理的に下だ。

 ……異変が起こっていたのは足元だった。


「うぉわっ……⁉」

「ふぇぇ⁉︎」


 突如、フェアリーリング全体がぽかりと口を開けたゲートと化し、吸い込まれるようにオレたちは奈落へ落下していった。


 落ちる……落ちる……落ちていく……


 闇の底から吹き付ける風を全身に受けながら、疑いが首をもたげた。

 

 もしかして、今までのは全部ピルィーの虚言で、オレたちはこれで死ぬんじゃないか……?


 走馬灯が頭を駆け巡る。

 しかし、燐の手だけは強く握って離さない。


 体感にして数十メートルを落下したところで、不意に尻餅をついた。


「イッ――あれ?︎」


 ……痛くない。


 周囲を見渡すと、オレと燐は真っ赤な花畑の上に着地していた。


「とーちゃーく!」


 オレの前に飛んできたピルィーは、手を大きく広げて言った。


「ようこそ常若の国、フェアリーランドへ!」



―― 第四章 銀髪美少女よ、頼むから離れないでくれ  了 ――



――――――――――――――――――

【大事なお願い】


ここまで読んでくださってありがとうございます……!


この作品は、カクヨムコン応募作品です。

受賞できるとは考えていません。

ただ、一度でいいので、読者選考というものだけは抜けてみたくって……


もし少しでも、面白かった! 続きが気になる! 楽しかった!

と思っていただけましたら、


ぜひ、下にある【星☆評価】でエールをください……


現時点の評価で構いません。

1つ押していただけるだけで大変ありがたいです。

入れて頂けたら【合格祈願】の舞を舞わせていただきます……

(読者選考は2/8までなので、それまでに何卒……!)


――――――――――――――――――


次回、北欧系ギャル、妖精を再び喘がせます。

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