第12話 いい人止まり、北欧系ギャルにラッキースケベする①
パソコン室に、ふたつのキーボードを叩く音が響く。
オレのPCモニターには、文化祭のパンフレットに載せる原稿が映っている。
傍らを見ると、灯里が学内広報用の新聞とにらめっこをしているところだった。
オレらは今、文化祭実行委員として事務作業中。
放課後にこんな校舎の隅のパソコン室にいるのはオレたちくらいだ。
窓の外からは、野球部やらサッカー部やらの掛け声が漏れ聞こえてくる。
「純」
灯里が、画面から目を離さずにオレを呼ぶ。
「んー?」
オレも原稿に向き合ったまま答える。
文芸部の奴らめ、指定文字数を大幅に超過しやがって……
「今日もホームレスの子のとこ行くの?」
「あー、これが終わったらな」
「もうちゅーしたの」
ガタガタ――ッ。
オレは弾けるように椅子から立ち上がっていた。
「な、なんでそうなるんだよ……!」
「だって、カノジョなんでしょ?」
「だから違うって。あれはそう言わざるを得なかったっていうか。あっちがそう言ってきてるだけ!」
「でも、なんだか毎日楽しそう」
彼女は、あくまでも目前のパソコンに向かって言うように話し続ける。
「放課後になったらすぐ教室出ていくし、なんか最近ツヤツヤしてるし。私とか瑛一と一緒にいるときとは違う感じ」
「そ、そんなことねぇって……!」
「ふーん?」
オレは椅子に座り直すと、脳内に残る全集中力を注ぎ込んで、残りタスクを急いで終わらせた。
今までの比ではない速度で、原稿が仕上がる。
早くここから立ち去りたい……
「オ、オレ終わったから、先に行くな!」
「愛しのカノジョに会いにいくの?」
「やけに突っかかってくるじゃんか……なんもねぇって……」
「ふーん? そう……」
灯里のジト目を受けながら、オレは逃げるようにパソコン室を後にした。
◇
住宅地の外れに位置する、人だけが足りない公園こと憩いの丘公園は、今日も閑古鳥が鳴いていた。
午後四時の、日没に差し掛かった太陽が、公園全体を赤い光に染め始めている。
パソコン室で浴びた灯里の言葉が、妙に耳に残っていた。
――なんか最近ツヤツヤしてる。
つい、自分の頬を撫でさすってしまう。
自覚がなかったが、そんなにツヤツヤしているんだろうか……
確かに、いつもは期待など持たなかった日常も、近頃は、毎朝ワクワクしながら起きられている。
燐との日々を楽しんでいるんだろうか、オレは……
いやいや、楽しんではダメだ。
オレは、彼女をホームレス状態から助け出すためにここにいるんだから。
オレは邪念を振り払い、公園に赴いて燐の姿を探した。
「燐ー、来たぞー」
いつもの狩り場を順に巡りながら、呼びかける。
……が、燐の姿はどこにも見当たらなかった。
「おーい、燐ー? 燐さーん!」
公園には誰もいないので、気兼ねなく声を出せる。
敷地内に燐の姿はなかったので、ぶらぶらと外周を回ってみた。
が、人の影さえ見えない……
「パンの耳でももらいに行ってんのか……?」
時間的には、いつもなら園内のどこかにいるはずなのだが……
探しあぐねている最中、ふと、彼女のオンボロな小屋が視界に入った。
寝床だからダメ、といつも見せてくれない、彼女の唯一のパーソナルスペースだ。
今日は少し――魔が差した。
十代のホームレス女子が、一体どんな部屋で生活してるのか。
ちょっと覗いてみても、罰は当たらないはずだ。
だって……そう、これは彼女の困窮現状を正確に知るためなんだから。
うん、そうだ。これは正義のため。
決して、興味本位なんかじゃないぞ。
「……お邪魔しまーっす」
オレは、身をぐっと屈めて、狭い小屋へ入室する。
段ボールでできた簡易的な扉を押し開くと、天井に据え付けられたランタンが淡い光でオレを出迎えていた。
中は、外見から予想する以上に狭かった。
小さな棚や箱、生活用品が壁に沿って並んでいるので、実際に移動できる空間は、人一人が寝っ転がれるくらいしかない。
そして、その狭い居住スペースには、恐らく万年敷きっぱなしの布団が占有している。
そのとき、視界の外で衣擦れのような音がした。
ん? なんの音だ……?
不思議に思って、オレは部屋の隅に視線をやる。
そこには、布団の上に女の子座りをした燐がいた。
少し前かがみになって、今まさにピンク色のブラから二つのたわわな房を電灯の下に晒そうとしている。
そんなギリギリの体勢のまま、オレの顔を凝視していた。
――――――――――――――――――
次回、いい人止まりが驚異の胸囲に驚愕します。
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