第16話 いい人止まり、幼馴染との過去を語る①


 寮に帰ってちょうど風呂を上がったとき、部屋のドアがノックされた。


「純、いるー?」

「おう」


 ドアから顔を出したのは、瑛一だった。

 彼は、部屋の様子を見て開口一番叫んだ。


「うわ、汚っ!」


 散らかり具合は、燐が来たときからまるで変わっていない。

 むしろ悪化の一途を辿っていた。


「少しは掃除しなよぉ?」

「こうみえて整理されてるんだけどな」

「整理と掃除は別だから……」


 瑛一は足の踏み場を選びながら、ベッドまで言って腰掛ける。


「なんか用か?」

「うん。純は灯里のことどう思ってるの?」

「は……ッ⁉︎」

 

 思わずむせこんでしまった。

 急になにを言い出してんだコイツ⁉


「どうって、いい友人で、幼馴染としか思ってないが……」

「本当に……?」

「な、なに疑ってんだよ! 本当だって! そりゃアイツは確かに美人だけど、妹みてぇなもんだし」

「そう……」


 瑛一はなにかを考えているようで、なにもない――正確には空のペットボトルが立ち並んでいる――場所をじっと見つめている。

 その真剣な様子が、オレには落ちつかなかった。


「え、あ、もしかしてお前、灯里のこと好きだったりするのか……⁉ でもお前彼女いるだろ! 浮気か⁉」

「そんなわけないじゃない。僕たちラブラブだもの」

「……なんか聞いて損したな……なら、なんで聞くんだよ。恋バナにでも飢えてんのか?」

「そんな小学生の修学旅行みたいな話をしたいんじゃないんだよ」


 彼は、床に座るオレをじっと見下ろす。

 その眼差しは、今まで見たことがないほど鋭いものだった。


「二人、一体なにがあったの」

「なにって……」

「今日、橋丘さんが飛び降りようとしたとき、二人なんか変だった。引きずるとか、被害者とか言って」


 そこでようやく、オレは瑛一がなにを言いたいのかわかった。


「あぁ、そのことか……」

「なにかあったよね。踏み込み過ぎかもしれないけどさ。でも僕、二人を親友だと思ってるんだ。事情があるなら仕方ないけど、教えられるものなんだったら教えてほしい」


 オレは瑛一と目を合わせる。


 気持ちを伝えるその真っ直ぐさは、誠実さを感じさせた。

 だから、コイツはモテるのかもしれないな……

 

「……オレは、加害者なんだよ」


 オレは、諦めて白状することにした。

 

 オレの心のなかにわだかまる、闇について。

 コイツには、話しておかなきゃならない……

 

「加害者?」

「あぁ……オレは一度、灯里を殺しかけた」


 瑛一が、わずかに息を呑んだのを視界の端に捉える。


 オレはひとつひとつ、情景を思い浮かべながら、語り始めた。

 一度も脳裏から離れない、白銀と真紅の光景について。

 

 

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