第19話 いい人止まり、北欧系ギャルと絵を売る①


 約束の日曜日。


 約束の時間より三十分も早く公園に着いてしまったオレは、いつものベンチに座って、ソワソワしていた。


 お、落ち着かない……

 風で髪が変になっていないだろうか……


 オレは、今日のために新しい服を買い、髪を切っていた。

 これがオレのできる最大限の準備だったのだが、数分に一回は不安で前髪をいじってしまう。

 そんなオレの背後から、涼やかな声がする。

 

「そんな服見たことない」


 振り返ると、そこにいたのは灯里だった。


 灯里は、この地味な公園でやたらに目立っていた。

 服装は、休日仕様だ。

 トップスは秋らしいニット生地。

 下は短いフレアスカートに、いつものようにニーソックスを着用している。


 モデルの灯里が今時ニーソなんかを履いている理由を、オレはよく知らない。


 わかっているのは、オレが昔、

 

「ニーソってなんかいいよな」


 と呟いたら、翌日から履いてくるようになったということだけだ。

 気に入ったのだろうか……


「お、おう! 灯里!」


 彼女はベンチまでやってくるなり、オレのつま先から頭までをジロッと眺めた。


「それに、髪も切ってる」

「あ、あぁ」

「今日のために……?」

「うっ⁉︎ い、いや、ちょうど伸びてたから切っただけだから」

「ふーん……?」


 ジロジロと、オレの全体像を眺める。

 そして、ポツリと呟いた。


「……バカみたい」

「な、なんだよそれ。似合ってないならそう言え!」

「別にそういうわけじゃないけど。なんか頑張っててウザいなって」

「頑張っててウザい……」


 オレは言葉もなかった。

 恥に手が震える。

 信じられん……世が世なら切腹してるぞ……


「私じゃ寝癖も直さないくせに……ホント浮かれちゃって……」

「あ? なんだって?」

「別に」


 灯里はそっぽを向いた。

 まったく、そっぽ向きたいのはこっちのほうなんだが……


 その後、なぜかご立腹の灯里姫の隣で、この会の主催者を待ち続けると、


「あ、純くーん!」


 ブルーシート小屋のある方向から、燐が手を振りながら駆けてきた。


 肩までの傷んだシルバーの髪を、風になびかせている。

 相変わらずかわいい。

 そして、小汚い。


 手には、大きなボストンバックを抱えていた。


「よ、よぉ」


 オレはぎこちなく手を挙げる。

 すると、燐は猫のような目を更に丸くした。


「え〜、純くんどうしたの! 今日カッコイイじゃ〜ん!」


 開口一番、理想の言葉をかけてくれる。


「え、そ……そう?」


 オレは頭に手をやって照れる。


「うん〜! 頭ツンツンしてて、まるでイケメンみた~い!」

「え、うえっへっへ――ん? それ褒めてる?」

「え〜なに〜? あーしとお出かけするから、オシャレしてくれたのォ〜? うれし〜!」

「いや、それはその……エヒヒ……」


 傷ついた自尊心が、みるみる回復していく。

 なにかはぐらかされた気もしたが、この際どうでもいい。

 

 オレは、認められた幸せに浸っていると、


「この子が例の子ね……」


 隣から、北風のごとく冷たい声がした。



――――――――――――――――――


次回、黒髪幼馴染が北欧系ギャルにキレます。

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