第46話

「っ――――!!!! ミリヤさん!!!」


 目を見開き、アルは叫ぶ。

 ミリヤがアルに気づいたようでアルを見た。


「ぁ、る、く……」


 そのままミリヤはその場に倒れ込んだ。ミリヤの周りに赤色が広がる。

 アルはそれを見て思考が止まる。

 動かないミリヤ。剣を持って笑い声をあげる魔物。アルは視線をミリヤから魔物に映す。

 その表情は――何の感情もなかった。

 アルは短剣を持って走り出した。魔物は近づいてきたアルに剣を振った、がアルはそれを短剣で弾き返す。

 まさかの出来事に魔物はギッ!? と驚きの声を上げる。

 アルはそのまま短剣を魔物の胸元に向かって突き刺す。そして短剣を引き抜き、また胸元に突き刺す。魔物は衝撃と痛みでその場に倒れる。

 その事に気にも留めないまま、アルは魔物の上に乗っかる。

 そして短剣を振り上げて、刺した。

 何度も、何度も、何度も。刺して、刺して、刺して。

 魔物が完全に動かなくなって消えていく。だがアルはそんな事は気にも止めず、何度も刺す。

 そして魔物が完全に消滅した。短剣は刺すものがなくなり、カツンと地面に先が当たった。


「アルさ……ミリヤさん!?」


 背後からクロスの声が聞こえた。だがアルはじっと魔物が消えた場所を見つめる。表情のない顔で。


「ミリヤさん!! っアルさん! 何してるんですか!!」

「……?」

「――っ!?」


 クロスが様子の可笑しいアルの肩を掴み、息を呑んだ。

 いつもは表情が微かに出しているアルの今の表情を見て、クロスは目を見開く。

 何も思っていない、無表情。

 クロスはいつものアルに戻らないかとアルの頬を叩いた。

 パチン。と音がしてアルの頬は叩かれる。アルは叩かれた頬を触り、何度も瞬きをする。

 そしてクロスとミリヤを見て、顔を真っ青にさせた。


「ぁ、ぁぁ、みりや、みりやさん、が」

「まだ息はあります。ですが回復魔法持ちの人が今この場にいません、このままだと……」

「……し、ぬ?」

「はい」


 クロスの言葉にアルは口をパクパクと開閉させる。

 死ぬ。ミリヤさんが? 死ぬ? どうして? アルの思考はぐるぐると回る。呼吸が荒くなり、震える手でミリヤの手を掴む。


「みりや、みりや、さん、しな、しなないで、いやだ、いやだ!!」


 その言葉と共にぽんっとかわいらしい音が周囲に響いた。

 クロスが音のした方を見ると、空中に何かの花が回っていた。


「これ、は……」


 黄色の花。アルが出したのはヒペリカムだった。

 ヒペリカムから光の粒がミリヤに向かって落ちてくる。

 光がミリヤの傷口に触れるとその部分が塞がっていく。それを見たクロスは「え……」と言葉を漏らした。

 ヒペリカムはミリヤの傷を塞いでいく。


「アルさん、これは……」

 

 そうしてミリヤの体に傷が無くなった瞬間、ヒペリカムは消え、アルはその場に倒れ込んだ。


「アルさん!?」

「ぅ……ん……?」

「ミリヤさん? ああ、こんな時どうすれば!?」


 クロスは焦り、一先ずミリヤを起こした。

 ミリヤは瞼を開け、「あれ」と呟いた。


「私、斬られたはずじゃ……クロスくん?」

「ミリヤさん。話はあとです。アルさんが……!!」

「えっ……あ、アルくん!?」


 ミリヤは傷一つない体で起き上がり、アルに近づいた。

 

「……気絶、してるみたい。よかった……」


 その言葉を聞いてクロスは安堵のため息を吐いた。

 そしてすぐにこの場が危ない事を思い出した。


「とりあえずここから離れましょう。アルさんは僕が背負います」

「うん」


 そうしてクロスはアルを背負い、三人はその場から離れた。

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