第38話

「『ダークネスルーム』早く、早く終わらせましょう」


 アルは焦りながら魔法を使う。ミリヤは先に駆け出し、暗闇の中を移動する。

 駆け出すだろうと思っていたアルは、魔法を使う時にミリヤが暗闇でも自由に動けるようにした。

 そしてアルは一気にティル達の方に瞬間移動する。


「これで、終わり」

「そこね。『ストーム』」


 勢いをつけてキリを殴ろうとした時、キリは魔法を使う。風が舞い上がりアルは身動きが取れなくなる。


「終わりだ!」

「――!? ぐっぁ」


 そして身動きが取れなくなった後、アルはティルに殴られ倒される。

 それと同時に暗闇は晴れる。ミリヤが驚いたような表情をして立ち止まった。

 それをキリが見逃さず、ミリヤの足を蹴って倒す。


「ミリヤさ――!」

「貴方達の負けだ」


 立ちあがろうとしたアルをティルは上に乗り止める。

 ミリヤの方も、キリに止められ立ち上がれずにいた。

 そして10秒後、笛が鳴った。


「……まけ、た」

「どうしたんだ? 調子悪いのか?」


 ぽつりと呟くアルにティルは心配そうに問いかけた。だが問いかけに答える事なく呆然とミリヤを見つめた。

 ミリヤはぼーっとしていてキリに話しかけられていたが、曖昧に応えていた。


「アルくん、負けちゃったね……」

「そう、ですね。ミリヤさん、怪我は?」

「大丈夫だよ。アルくんこそ、顔から鼻血出てるけど大丈夫?」

「え――あ、ああ本当だ。気づきませんでした。怪我、治してもらってきます」


 アルはそう言ってその場から離れようとした――が。


「あ、れ」


 視界が霞み、アルはその場で倒れ込んだ。


「アルくん!?」


 ミリヤの焦った声を聞きながら、アルは意識を落とした。


<>


「顔面殴られた衝撃で脳震盪になったと思う。暫くは安静に。お大事に〜」


 アルは医務室から出て天井を見上げる。そして頭を少し触ってから歩き始める。


「アルく~ん!」

「アルさ~ん!」

「……ミリヤさん、クロスさん? どうしてここに? 決闘は終わったんですか?」

「終わりましたよお。あの二人の決闘早かったので、アルさんの所にきたんですよお」

「アルくん、ごめんね、私が悩んじゃったばっかりに……」

「……いえ、大丈夫です。焦っていた僕も悪かったので。お気になさらず」


 謝ろうとしたミリヤにアルは慰める。


「お二人共、何かあったのですかあ? 三回戦ぐらいから様子がおかしいように見えたのですがあ……?」

「あ~、それは、ちょっとあってね」

「曖昧ですねえ。聞かない方がいいです?」

「うん……色々整理とかしたいから、まとまったら教えるね!」


 ミリヤは申し訳なさそうに話す。その様子は元のミリヤに戻っており、アルは安堵した。

 

「アルくん、怪我はどうだったの?」

「脳震盪らしいです。暫く安静に、という事です」

「この先暫くはそんなに体を動かす事もないでしょうし、安静に出来ますねえ」

「だね! よかった~あまり大事な事にならなくて」

「ですねえ」


 二人が安心した様子を見せる事にアルは幸せを感じた。友達というのは、心配してくれるものなのか。幸せだなとアルは微笑んだ。

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