第40話
校舎の中に入るとガタガタガタ! と窓が揺れた。
さっきまで風は吹いていなかったはず……なんだ? とアルは思ったが、これを口に出すとクロスを怖がらせてしまうと思い口には出さなかった。
校舎の中は暗く、そして冷たい空気が漂っていた。
ひやりとした空気が肌に当たり、寒さで体が震える。
夏になりかけなのに、何故寒いのだろうか。何か、いるのか。アルは短剣をいつでも取り出せるようにする。
「寒いですねえ……ふ、ふぁ……ふえっくしょい!」
「大丈夫ですか? 戻りますか?」
「だ、大丈夫ですよお。ここまで来たんです、ついていきますよお!」
ちょ、ちょっと怖いですがねえ……と小声でクロスは呟いた。
無理しなくていいのに。とアルは思いつつ視線をクロスから通路の先を見つようとした。その時。
「あれは……?」
曲がり角に消えていく薄水色の何か。音もたてずにそれはアルの視界から消え去った。
「アルさん……? どうしたんですか?」
「今あそこで何かが動いた気がして」
「えっ、何かいるんですかねえ?」
「さあ……」
幽霊、とか。アルはそう口にしようとしたが、確信がない為言わない事にした。
「確かめに行きましょう」
「そ、そうですねえ。それが物音の正体かもしれませんしい……」
「無理はしないでください」
「アルさんもですよお」
「僕は大丈夫なので」
大体こういう事態には慣れてる。暗殺者生活と比べたらこれぐらい、どうにでもなる。
でももしあれが幽霊だったら? 幽霊は斬れるのか? 斬れなかったら解決できないから嫌だな……とアルは思いながら先に進んだ。
二人分の足音が校舎内に響く。それに応えるように窓が音を立てて揺れる。
何かを追い二階に行くと、部屋に入って行く何かの姿を見つけた。
「あそこは……空き室だったはず」
キリを探し終わって数日後にまだ敵がいないかを探しに来た時にあの場所に来た事を思い返す。
その部屋に近づくと何かが聞こえてきた。
「な、なんですかあこの声……泣き声……?」
アルは部屋に向かう最中、頭の中で行くな、駄目だ、取り返しがつかなくなる。という警告が頭によぎる。
でも何故取り返しがつかなくなる? アルは考えながら引き戸に手をかける。
そして、勢いよく引き戸を引いた。
「っ――!?」
そしてアルは絶句した。
目の前で俯いて泣いている女性――否、獣人。
その青い髪、獣人科の服。見覚えのある姿。アルの頭にこれは駄目だ、駄目だ。クロスさんに見せてはいけない。とアルは思い、クロスを見せないようにしたかったが、思うように体が動かなかった。金縛りにあったかのように。
「……ぺリアさん? その、姿は?」
クロスが何か――ぺリアに問いかえた。だがぺリアはずっと泣いて言葉を発しない。否、発せなかった。よく見ると首からヒュー、ヒューと音を出しているだけで、声を出せないようになっていた。
ぺリアは泣きながら、目を鋭くさせアルを指差した。それをアルは目を見開く。不味い、殺した事がクロスさんにバレる。と。
「ぺリアさん? ど、どうしたんですかあ……?」
クロスはぺリアの行動に理解が出来ないようで、困惑した表情をしていた。
アルはじっとぺリアを見つめ、悩んだ末ため息を吐いた。
「早く、向こうに行け」
そう言って短剣を取り出しぺリアの体を斬った。
「アルさん!?」
ぺリアは呆然とした様子でその場から消えていった。それと共に窓の揺れは収まった。
「あ、アルさん。何を……?」
「……友達生活、楽しかったです」
アルはそう言って短剣を構え、クロスに近づく。大切な人だが、立場が悪くなるのだけは避けなくては、ミリヤさんに嫌われなかったら、親友を、殺してでも! アルは泣きそうな表情をしながらゆっくりとクロスに近づく。
それと共に呼吸が乱れていく。殺したくない。初めての友達。手を下したくない。アルはその感情を必死に抑える。
クロスは驚いていたが、アルの表情を見てにこりと笑った。
「何か、あったのですねえ? バラしませんから、その短剣しまってくれませんかあ?」
「それは聞けない話です」
「そんなに泣きそうな顔で言われましても……アルさん、もしかして、ぺリアさんを殺した事をバラされると思ってますかあ?」
「っ……どうして、それを」
「噂で聞きました。あとは、今の光景見て確信した感じですねえ。別にバラしませんよお?」
だから、お話しましょう? クロスはにこりと恐怖の色を出さずに言った。
アルはそれにどうすればいいか分からず、立ち止まってしまった。
「アルさんがぺリアさんを殺した事を黙っていたのは、今の関係が崩れる事の恐れですかねえ。大丈夫ですよお」
「ど、うして、バラさないんですか。殺されかけて、いるのに」
「どうしてと言われましてもねえ、僕、こう見えて元奴隷なんですよお」
「……奴隷?」
「聞いてくれますかあ?」
そう言ってクロスは話を始めた。
クロスと言う名前はシベリウス家に来た時に付けて貰った名前。奴隷としての名前はNo.90だった事。そして生き残る為に奴隷自体に人間観察がしていて、それが癖になって今でもしていた事。観察していてアルが普通の貴族ではない事を早い段階で分かっていた事。クロスはゆっくりと、楽しそうにアルに言った。
「だから、安心してください~バラしませんよお」
「……ともだち、でいられる……?」
「はい!」
「ほんとう? ころさなくていい?」
「大丈夫ですよお。だから、僕の前では隠さなくていいですお?」
その言葉を聞いて、アルは一粒、また一粒と涙を流した。
強いように見せて、弱い人なのも、分かっていましたよお、そんな貴方に、僕は惹かれたんです。クロスはアルを抱きしめ、思った。
「僕は、嘘つきですからねえ。でも、大切なものは守りますよ」
「……どこまで、嘘だったんだ」
「アルさんとミリヤさんといる時は九割本当ですよ。所々アルさんの事察したりで嘘はついていましたが」
「……そうか」
「ははは! さあアルさん帰りましょう! この事は二人だけの秘密ですよお!」
立ち上がり、アルに手を差し伸べてクロスは言った。
分かりやすいように見えて、そこが知れないタイプの方、だったか。とアルは笑みを浮かべてその手を取った。
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