49話

 アルは花から手を離し校舎の中に入る。

 そこにティル達が近づいてきた。


「アル様! ミリヤ様! 無事でよかった……」

「怪我は……」

「ないよ。大丈夫!」


 ティルが心配そうに二人を見る。

 ミリヤはアルから離れ、怪我がない様子を見せる。

 同様にアルも無事な様子を見せる。それを見て二人以外は安堵した様子を見せる。

 そしてアルは、自分を吹き飛ばしたキリに近づく。


「何故僕事を吹き飛ばした?」

「……私の魔法知ってるでしょ、まだ細かく制御できないの。それに、あの場面ではあの行動が一番いいと思ったの、すまないとは思ってるわ」

「見捨てる。つもりだったな? ミリヤ以外が助けに来ない時点でそう思ったが」


 アルはキリをじっと見る。キリは申し訳なさそうに眉を下げて、少し頭を俯かせた。


「……そう、なるわね」

「まぁまぁまぁ!! 無事だったんだやからええやろ?! 過ぎた事を気にしても仕方ないやんか!!」


 二人の間にアリアが割り込む。アルは視線をキリから離し、「そうですね」と少し苛立った声で言った。

 そしてその場から離れるように歩き始める。


「アルさん? どうしたんです?」

「他に魔物がいるか確認してきます。どうぞお気になさらず」

「アルくん、私も行くよ!」

 

 ミリヤはアルに駆け寄る姿を見て、クロスは少しアル達とティル達を見て言った。


「あー皆さん、後は任せてもいいですかあ? 僕達はアルさんと行動するので~」

「今の状態だとそれがいいだろうな。俺達も他の所に行く。アリア、行くぞ」

「はいはい。それじゃあ解散やなぁ。皆気をつけえやぁ?」

「ああ。皆ありがとう!」


 ティルの言葉に、クロスはアル達の方に向かった。

 アルの隣に並び、話しかける。


「アルさん、大丈夫でしたかぁ?」

「クロスさん」

「あっ……はいなんでしょうか」

「何故、ミリヤを止めなかった?」


 アルのいつもより低い声にクロスは「怒らせちゃったかあ」と思った。


「いやぁ……ミリヤさん速いので……止められなかったですねえ!! いやぁ申し訳ない!!」

「歯ぁ食いしばれ――死ね!!」

「えっ!?」


 わはは! と笑うクロスに向かってアルは勢いよくクロスの頬を殴る。

 鈍い音が響き、ポタリと血が垂れる。

 その様子を見て驚くミリヤ。アルは殴った後深呼吸をする。それを見たクロスは口から出ている血を拭きとりアルを見た。


「気は、済みましたか?」

「……少しは」

「えっえっ、だ、大丈夫なの……? あとアルくん口調砕けてるね……?」

「……あ。ああ、申し訳ありません。見苦しい所を……少し頭に血が上っていました」

「さっきの口調のままでいいよ!! お願い!」


 目をキラキラさせて言うミリヤにアルは「え」と言葉に詰まる。

 そこにクロスがアルの肩に手を置いて頷いた。


「いいんじゃないですかあ? そろそろ呼んでもいいと思いま……あっ口が痛い……思ったより痛い、痛くなってきた……かなしい……」

「そこは言い切ってほしかったです。……まぁ、うん。ミリヤ、貴方がそういうなら、そう、する」


 アルの少し照れた様子に、ミリヤは嬉しそうにアルの手を掴んだ。


「ありがとう! あ、クロスくん口大丈夫?」

「僕の事はお気になさらず……」

「口治しに行くか?」

「そこは二人の世界に行く所じゃないですかぁ! 僕の心配なんてしなくていいんですよお!?」

「二人の……」

「世界……?」

「んもう!!! なんでもないです!!!! 口治しに行ってきます!! あとはお二人でごゆっくり!!」


 クロスはそう言って速足で二人から離れていった。

 アルとミリヤは去って行くクロスを呆然と見てからお互いを見て、「行く……?」「そうだな……?」とクロスの様子に疑問に思いながら魔物確認の為に校舎を歩き出した。


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