第16話

 その日の夜、アルの部屋にクロスが来た。


「アルさんのお部屋……お邪魔します~」


 クロスはオドオドしながら中に入る。その顔には興味と嬉しさが出ており、顔に感情が出やすい人か? とアルは思った。

 手にはお泊りセットを持っていて、アルは泊る気満々だな。とじっとクロスのお泊りセットを見た。


「な、なんですかあ! 泊ってもいいって言ったのはアルさんですよお!」

「……思ったより楽しみにしていたんだなと思っただけですよ」

「た、楽しみに決まってるじゃないですかあ! お友達とお泊り! 最高としか言い表せない!」

「そうですか。夜も遅いので声押さえてください」

「はっ、僕としたことが……分かりましたあ」


 その言葉にクロスは声を抑える。

 アルはクロスと話して少し分かった事があった。それはクロスの語尾を伸ばす口調が素である事。そして笑顔に見せようとして何か企んでそうな顔に見えてしまう事。話自体は楽しく、クロスの変わる変わる表情にアルは楽しさを感じていた。

 クロスの印象が第一印象が胡散臭いから、損してしまう人だな。とアルはそう考えた。


「……寝る時は毛布を借りにいきましょうか。クロスさんはベッドで寝てください。僕は床で寝ます」

「ええっ!? そんな事できませんよお! 僕が床で寝ます~!」

「客人にそんな事させる訳にはいきません。ベッドで寝てください」

「それは……そう、ですね……?」


 客人の言葉にクロスは納得した様子で頷く。そしてアルはクロスのお泊りセットをベッドの上に置いてから、椅子に座るように言う。


「紅茶入れますね。座って待っててください」

「ありがとうございます~」


 椅子に座ったのを確認してからアルは紅茶を入れに行く。紅茶を入れて洋菓子を用意してクロスの前に出す。


「おおっ! ありがとうございます~いただきますねえ」

「どうぞ」


 クロスの反対側の椅子に座りアルは紅茶を飲み、クロスに話しかける。


「聞きそびれましたが、何故僕に興味が?」

「ああ、それはですねえ……貴方が普通ではない気配を纏ってるように見えたんですよお」

「……何故?」

「最初は覚えていませんが、完全に興味が出た決めてはこの間の戦闘交流会ですねえ。容赦なく殴り飛ばしたあの姿! 普通の者なら少しは躊躇はするというのに、貴方はその様子を見せなかった。だからですねえ」


 ペラペラと楽しそうに話すクロスにアルは視線を逸らしながら話を聞く。


「あれはティル様が僕にしつこく突っかかってきたので怒りで殴っただけですよ」

「そうなのですか? まあいいんですよそんな事は! 貴方と友達になれた。それだけで僕は幸福です」


 初めての友達っ……最高です~。とうっとりした様子でクロスは言う。アルはそんなに嬉しいものなのか? と思いつつ相槌を打った。


「さ、さ! 何しますか!? トランプ持ってきたのでそれで遊びますかあ?」

「そうですね、遊びましょう。僕も、こういう体験はしてみたかったので」

「――! そう、そうですかあ! それは嬉しい事です!」


 クロスははしゃぎながらお泊りセットからトランプを取りに行った。その様子を見て、この方は人生楽しんでそうだな。とアルは思った。

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