第47話
アルはどこかの部屋で目を覚ます。
ぼろぼろの天井が見え、次に周囲を見渡し、そこが医務室だと分かった。
アルは何度か瞬きをしてからゆっくりと起き上がる。そして自分がベッドではなく、床にシーツが敷かれた場所で寝ている事に気づいた。
周りにもシーツが敷かれた状態で寝ている怪我人が多く、そして対応に追われる治癒魔法者達。
ぼんやりとその様子を見ていると、一人の教員がアルに近づいた。
「起きましたか? なら早く出てください。怪我人はまだいますので」
「あの、僕はどうやってここに?」
「獣人科の方と一般科の方が貴方を運んできました。怪我はないようなので寝かせていましたが……」
「……そうですか、ありがとうございます。すぐに出ていきます」
アルはそういいシーツから退く。
そして武器や薬があるのを確認してから部屋の外に出る。
部屋の外に出ると気絶する前より騒がしさは減ったが、いまだに対応に追われている生徒や教員が廊下を行き来していた。
怪我人を担架で運びこんでくる人や、騒音の方向に向かう人。
「二人は、何処に」
アルは辺りを見渡しながら短剣を手に持つ。そして二人を探しにその場から駆け足で走り出す。
走ってアルは周囲を確認する。ボロボロになった壁や床、血が所々についており沢山の者が怪我をしたのだと分かった。
騒がしさはマシになっていたので、魔物の数が減ってきているんだろうな。とアルは思った。
そして走っていると見覚えのある姿を複数見つけた。
決闘祭で戦った、アリアとミツ。ティルとキリ。そしてミリヤとクロス。アルはほっとして六人に近づいた。
「皆さん」
「アルくん! 起きたんだ。大丈夫?」
「はい。……ええと、今は何を?」
「状況確認っていった所やな」
アリアがそう言って説明を始めた。
襲撃された時と比べ、魔物の数は減っている事。怪我人は多いが、まだ死傷者は出ていない事。これからどうするかと考えていた話を今していた。とアリアは言った。
「それにしても、どうして魔物はこの学園に来たんだ? キリ、何か分かるか?」
「さあね。まあ魔物に理由とかないと思うわ」
「それでこの学園を襲うなんてな。いい迷惑だ」
怒った様子で腕を組みながらミツは言う。
その言葉に全員がうんうんと頷いた。そしてクロスが口を開く。
「結界魔法者はいないんですかねえ?」
「いるにはいるんじゃない? ただ今はできないと思うけど。結界貼るのに時間がかかるし、なにより人手が足りない。エルフ科の子達が魔物の対応に追われてるから結界作ろうにもつくれないし」
「キリさんは結界魔法使えないのですか?」
「基礎魔法だから出来るには出来るわよ。ただ、こんなにでかい範囲を囲うなんて魔力が足りない。範囲が大きければ大きい程、使用者は多くなるのよ」
アルの言葉にキリは「あたしだけじゃどうにもならないわ」と諦めたように言った。
その話を聞いてどうすれば……と皆で悩んでいると、ティルがあ。と口を開いた。
「俺が結界貼ればよくないか? 俺ならそうそう魔力は枯渇しないし、なにより魔法目のメンテナンスしてもらったばっかりだから使えるぞ?」
ティルはそう言って青い目の方を指差して言った。
アルはそれを聞いて、ああそうだ、この方は魔力で困る事ないんだった。と思い出した。
ティルの目にはめ込まれている魔力目は魔力を注ぎこんでくれる物だった。
元々右目がない状態で生まれたティルに、不便なく過ごせるように。と渡されていたものであった。
「その目、本物じゃなかったの? 視界とか……どうなってるの?」
「義眼みたいなもんだよ。視界は見えるように調整してもらってるから、日常生活では問題ないよ。魔力面で困る事もないしね」
「ティル、貴方一人で結界貼るつもり?」
「そうだけど」
「馬鹿なの? この学園どれだけ範囲あると思ってるの?」
「でも、結界貼らないよりかはマシだと思う。頼む、やらせてくれ」
ティルの頼みにキリは嫌そうな顔をする。ミツはいいんじゃないかと同意し、アリアとミリヤは判断に困っていた。
クロスはうーんと考え込んだあと、ティルの言葉に賛同した。
「アル様、貴方はどうだ?」
「いいと思いますよ。補助は僕達ですればいい話ですし、やって損はないかと」
「ありがとう。――キリ」
ティルはアルの言葉を聞いてキリの方を向く。
キリは嫌そうな顔をしたが、ティルの真剣な顔を見てため息を吐いた。
「はぁぁぁ、はいはい、分かった、分かったわよ。やれば?」
「キリならそういうと思った」
頷いたキリにティルは嬉しそうに笑った。
キリはその顔を見てティルの額を手で弾き、振り向いて歩き出す。
「キリさん、どこに行くの?」
「ここじゃ狭いから広い所に行くのよ。ここは今は安全だけど、いつ危険が来るかわからないじゃない。そうなった時、広い所で戦いたいわ。ほら、行くわよ」
「あてはあるんですかあ?」
「交流広間」
そう言ってキリは歩き出す。皆もそれについて行き、その場をあとにした。
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