第48話
七人は交流広間に着く。
壁が壊れ、吹き抜けのようになっており、外からこちらに近づいてきている姿を見つけた。
「この学園、街から離れた高い敷地に立ってるけど、なんで街じゃなくてこっちを襲ったんだ? 街燃えてないし……」
「向こうからしたら高い場所に建物あるーこわそって感覚なんじゃないか?」
「理不尽……」
ミツの言葉にティルは嫌そうな顔をした。
「お喋りはそこまで。貴方達、そろそろ始めるわよ。ティル、準備しなさい」
「ああ、うん。分かった――――」
キリの言葉にティルは前に出て、深呼吸してから手を突き出す。
そして呪文を言葉にしだす。
結界魔法は誰でも使える基礎魔法だが、強力な魔法な為呪文を必要とし、呪文を言い終えるまで発動するのに時間がかかるものだった。
アル達が持っている個人個人の魔法は呪文を必要としないものな為、すぐに発動するものだった。
ティルの周りに金色の魔法陣が現れる。
「――護るものはこの場に。護るべきものを救う為。広がれ、命を包み込むように。広がれ、命を守る為に――」
言葉は続く、それと共に魔法陣は広がっていく。
外から学園に急接近してくる飛行魔物の姿。アリアが全員の前に立ち、手を突き出す。
「――来ます」
「あんたら気ぃ引き締めえやぁ!! 『ウォール!!』」
「雑魚は任せろ。火の鳥よ! 撃ち燃やせ! 『ファイアー・オブ・バードズ!!』」
ミツの魔法獣が魔物に向かって校舎の外に飛び出したと同時に、アリアの壁が校舎と外を塞ぐ。
外から不気味な叫び声が聞こえた後、ドンッと何かがアリアの壁にぶつかり校舎が揺れる。
そして五回程衝撃が壁にぶつかると壁は音を立てて崩れ去った。
それと同時に撃ち落とせなかった魔物達が校舎に入ってきた。
「『プリゾン・オブ・ファイアー』戦闘向きの魔法ではないのですが、足止め程度にはなりますよお!」
「ミリヤさん、一緒にティルを守るわよ」
「うん! 任せて!」
クロスが校舎の一部を魔法にする。魔物方面に火の柵が現れ、飛んできた魔物を足止めする。
ミリヤとキリはティルの近くに寄り、キリは弓を。ミリヤは剣を取り出す。
「さて、行くか……『ダークネスルーム』『シャドウ』」
アルは攻撃、防御、素早さの錠剤を噛み砕く。短剣を取り出し、柵の向こうに影の空間を作る。
その影の中に入り、アルは短剣を構え、一体、また一体と魔物を切り裂いて行く。
「もう一回行くぞ!! 当たらないように気をつけろよ! こっちは見えないんだからな! 『ファイアー・オブ・バードズ!!』」
「見えないなら魔法を使わない方がいいだろ……」
外から火の鳥が暗闇空間に入り込み、中をビュンビュン飛び回り魔物を燃やしていく。
アルは天井に影に手を埋め込み、ぶら下がる形で燃やされないようにする。
「燃やした方が得策か。ドラゴンも燃やせるといいが……『フラワーハピネス。火炎花』」
アルは魔物を見ながら自身の周りに下向きの花を作り出す。花から拳サイズの火の玉が一つ、また一つと落ちていく。
火の玉は魔物に当たると、その箇所が燃え出す。
「火の牢獄と、火の鳥と、火の雨……灰になりそうだ」
じっと燃えていく様を見ていると火の鳥が暗闇から消えた。だがまだクロスの作った牢獄は機能しており、地面が燃えていた。
「ミツ様は魔力切れか? それとも持続時間がそこまでないタイプか。クロスさんの魔法の持続時間はいつまでだろうか……僕の花は魔力消費しないから問題ないとして、この空間が持つかどうか……。あとはあれだけなんだが、図体がでかい分中々死なないな」
アルは周囲に火を巻き散らすドラゴンを見て呟く。
じりじりと自身の魔力が減っていくのを感じ、アルはゆっくりと焦る。止めを刺したかったが、無差別に火を吐いてる今迂闊に近づけず、アルは花から出される火の玉だけが攻撃手段となっていた。
「アルさんっ……すみません! もう無理です!」
「……ミリヤさんに攻撃が飛んでないといいが」
檻が消え、残りはアルの暗闇空間だけとなった。暗闇空間は周囲を闇で囲うだけの魔法な為、普通に外に出る事が出来る。
アルは短剣を持ち直し、攻撃体制に入る。
「……3、2、1……今」
足を天井にくっつけ、勢いをつけてドラゴンに飛びついた。
それと同時に空間は消え去る。
ミリヤ達は現状が分かり、ミリヤは剣をもって走り、キリは矢を放った。
「はぁっ!!」
「『ファステスト!』」
「――死ね」
キリの矢がドラゴンの左目に刺さり、ミリヤの剣が腹を裂き、アルの短剣が頭に刺さる。
ドラゴンは痛みに暴れ出し、火を吐こうとする。アルは短剣をもっと奥に刺し、ダメージを与えていく。
「ミリエル!! 先に謝るわ! ごめん!!」
「は?」
「『ストーム!!』吹き飛べ!!!」
キリの言葉と共に強い風がアルもろともドラゴンを吹き飛ばしていく。
ドラゴンが校舎の外に出たと同時にティルの魔法陣の音がなった。
「『エンチャーントメント!!』」
結界が学園全体を包み込む。
アルはそれを見ながら空中でドラゴンに止めを刺す。そして下を見て「あー」と声が漏れた。
シルベ学園は高い場所に校舎が建っている学園だった。そして、交流広間がある方面は崖。下は海だった。
「三人で海に行きたかったな……こんな、海じゃなくて」
アルは諦めたようにドラゴンの上で目を閉じる。
だが、上から聞こえた声でアルは目を開き驚いた。
「アルくーーーーん!!!!」
「なっ……ミリヤさん!!!」
上からミリヤがアルに向かって落ちてきていた。
ミリヤはドラゴンの上に落ち、顔を上げる。
「どうして来たんだ!!」
「アルくんを一人にさせられないよ!! まだ、告白の返事さえしてない!」
「っ――だからって!」
「アルくん、大好き! アルくんとならどこへだって行けるよ!」
ミリヤの笑みを見て、アルは言葉を失う。
どうして今そんな事を言うんだ。僕の、僕の事を全部知っているわけじゃないのに! とアルは唇を噛みしめる。
「アルくんは一人にはしないよ。死ぬなら、一緒に」
「っ――死なせるものか!!」
ミリヤの覚悟を決めた顔を見て、アルは下を見る。
海に落ちるまでもう時間はない。崖から上がろうにも飛行魔法を覚えてない今それも厳しい。どうすれば――――。
その時、ふとある可能性がよぎった。でも、もし失敗したら――? アルはその思考を振り払って手を上空に向け、もう片方の手でミリヤの手を掴む。
「……一か八か。賭けるぞ」
「アルくん?」
「『フラワーハピネス! 浮遊花!』頼む、頼む、生まれろ……! 飛べ!!」
海にぶつかるまであと数秒の所で、花が咲いた。
それと同時にドラゴンと二人の足が離れた。
白い風船のような花は落ちる事無く、ふわふわと上空へと向かって行く。
「え、え?」
ミリヤは訳が分からず困惑した様子を見せる。アルは荒い呼吸をゆっくりと落ち着かせ、ため息を吐いた。
「せい、こうした……」
「アルくん……」
花はゆっくりと交流広間の方に向かってゆっくりと浮遊していった。
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