第3話
授業というには何も学んでいない、ただ自己紹介と説明を受けただけの授業が終わり、アルは男子寮に向かっていく。
アルは自分の番号の部屋の鍵を開け、中に入る。中には箱があり、部屋着や本等が入っていた。
全てを棚やタンスに仕舞った後、教室で貰った歓迎会案内の紙を取りだす。
紙には何時からの開始、場所等が書いてあった。更には、獣人科、エルフ科も参加可能と書いてあった。
アルはじっと紙を読み込んでからふと、教室に向かう時に出会った獣人の彼女を思い出した。
「あの子は、来ているのだろうか」
綺麗な獣人の彼女。アルは彼女に一目惚れしていた。
アルは騒がしいのは苦手だったが、彼女に会えるかもしれない。紙を持ってアルは歓迎場所に向かって歩いて行った。
歓迎会場では多くの者が食事をとったり、交流をしたり、踊っていたりなどしていた。
室内で流れるは心地のいい音楽。優雅だと感じるようなその音に聞き入っていると騒がしい声が聞こえてきた。
何だ? と騒がしい方を見ると、そこにはエルフと揉めている男子生徒。その近くには見覚えのある白髪。ティルが男子生徒を止めていた。
「やめろって!!」
「ふざけんな!! 魔法が上手く扱えるからって調子に乗んな!!」
「はあ? ふざけてるのはどっち? 貴方、この子を馬鹿にしたわよね? 謝りなさい!!」
じっと騒いでるのを見ていると髪が青空のような色に赤い目、エルフの見た目がヒロインのキリ・ティラベルにそっくりだという事に気づいた。
そして聞き覚えのある台詞。そこでアルは気づいた。これはティルが初めて、ヒロインのキリに出会うシーンだという事に。
この場面では、ティルが男子生徒を殴って止めるシーンである事を知っていたので、アルは傍観者に徹した。
その時、視界の端であの太陽を見つけアルはそちらの視線を送った。
「――このっ……落ち着け!!」
その一声と騒ぎ声でアルはティルの方に視線が逸れた。また彼女を探そうと視線を動かすと彼女の姿はそこにはなく、アルは少しがっかりした。
ティルは男子生徒を殴って気絶させた後、ミリアとその近くにいるエルフの生徒に声をかけていた。
アルは太陽の彼女を探しにその場から動きだす。
何処にいるだろうか。そう探していると歓迎会場からそそくさと出ていく金の髪。アルは足を速めその後を追う。
そして出ると彼女が寮に戻っている最中だった。
「ねえ! そこの太陽の貴方!」
「えった、太陽!? えっ……君は、あの時の……?」
太陽の彼女はアルの声に驚き振り返る。
月に照らされた彼女の顔が顕わになる。その姿は初めて出会った時とは変わらず、綺麗だとアルは感じた。
「貴方の名前は?」
「え?」
「僕は、アル・ミリエル。一般科の生徒です」
「えっ、えっと、私は、ミリヤ・ニャメル。獣人科の生徒です」
アルは彼女――ミリヤの名前を何度も心の中で言う。
「ミリヤさん、貴方に会えてよかった」
「え? あ、ありがとうございます……?」
「また会える日を楽しみしてます」
アルは優しく微笑む。ミリヤはそれを見て顔を赤らめ「えっと、あの」と困惑していた。
その後アルは頭を下げ、その場から去って行く。ミリヤは困惑しながら去って行くアルを見つめていた。
「綺麗、綺麗、光、太陽、綺麗、綺麗……!」
アルは学園内を走る。その顔は興奮に満ちており先程の優しい笑みとは違い、恐怖を感じるような笑みを浮かべていた。
欲しい。あの光が欲しい。アルは邪悪な笑みを浮かべながら寮へと戻って行った。
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