第10話
交流会が終わりアルは部屋に戻る。そして風呂や食事を済ませてから本を読んだりして時間を潰し、時計が11時を指したのを確認した後部屋から出る。
出てから少し歩き、アルは今日ミリヤに害を与えようとした生徒の部屋の扉をノックする。
少ししてから生徒が眠そうな顔で出てくる。
「だ……れだ? こんな、夜中……に」
「こんばんは」
「お、おま、おまえは――――」
声を上げようとした生徒の口を塞ぎ、首筋に二本の注射器を刺す。中身は今日一日の記憶を忘れさせる薬と睡眠薬。
即効性の薬が効き生徒が倒れるのを支えながら、アルは部屋の中に入る。そしてベッドに寝かせる。
「『ダークネスルーム』……よい夢を」
鍵を閉めてから、魔法を使い影内を移動する。
そしてもう一人の生徒にも同じようにしてからアルは部屋に戻る。記憶を無くせば、そうやすやすと周りは自分達に近づかなくなるだろう、その為に記憶を無くした二人には演出になってもらおう。とアルは笑った。
「暗殺する必要がないのは平和の証だけど慣れないな」
短剣を取り出しじっと見ながらアルは言う。
その時、扉がノックされる。アルは自分に来客? と思いながら扉を開けるとそこにはティルがいた。
「……貴方は、誰でしたっけ?」
「ティル。ティル・キリシア。アル様、さっきのは何だ。あの人達に何をしたんだ」
ティルは怒った様子でアルに言う。アルは先程の行為が見られたのだと思い面倒と思いながら口を開く。
「眠らせただけですが」
「何でそんな事をするんだ」
ティルはアルに掴みかかる。アルはそれを引き離し突き飛ばし、冷めた目でティルを見る。
「貴方がそれを知る必要はありません。では」
「お、おい、まっ――」
バタンと扉を閉め叩く音も無視してベッドに寝転がる。
現場を見られてしまったからティルを消すべきか、だが相手は主人公。主人公補正はついてるはず。とアルは悩む。
そして、アルは決意する。
ティルがこの先邪魔をするならどんな手段も選ばない。邪魔をした事を後悔させようと思った。
「悪は悪らしく、手段は選らばない……そうだろ? マスター……」
前世の飼い主が言っていた言葉を思い出しながらアルは眠りについた。
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――■■。
アルは夢を見る。目の前には前世の飼い主。
――この本をあげよう。娯楽は必要だろう?
――これは?
――小説。読んでみるといい。もし続きが欲しくなったら言いにおいで。
飼い主から貰ったその小説のタイトルは『ミルファード・ワールド』。アルは飼い主からの初めて贈り物に困惑しながら与えられた個室で内容を読んでいく。
ティル視点で語られるその小説にアルは一ページ、また一ページと読んでいく。
アルはティルが普通とは違うのにポジティブな性格、自由に行動できるのに羨ましいと思った。暗く、与えられた事をこなすだけの自分とは違う。
そしてあっという間に小説を読み切ってしまった。その時のアルの心は幸せと続きが見たいという気持ちだった。
世の中にはこんな素晴らしいものがあるのだと。アルはそこで初めて笑みを浮かべた。
――マスター。
――■■? どうした?
――この本の、続きが読みたい。
――ああ、いいよ。後日送るから待っていなさい。……■■、仕事だ。このリストの人間を暗殺しろ。
――はい。
仕事をこなしながらアルは飼い主から貰える小説を読んでいく。そして全巻読み終わると、また一から読み直す。
そして全巻の内容を覚える程になっていた頃。アルは仕事に失敗した。
瀕死の状態で放置されたアルは電話をかける。
――マスター……マスター……。
――…………■■。今日までよくやってくれた。ゆっくり、休むと、いい……。
電話の先の飼い主の声は震えていた。
――うん……おやすみ、マスター……また、あいたい、な……。
――■■。おやすみ。
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