第20話

 アルとクロスは噂について情報を集め始めた。一人一人話を聞いて分かった事があった。それは誰もが噂を流した人物を知らない事。必ず一人は噂を流した人物と接触しているはずなのに誰もその人物を知らなかった。

 一般科の生徒だけで話を聞いているから噂を流した人物の情報が集まらないのか、とアルは思った。

 

「アルさん、一人だけ聞いてない人いますよねえ……?」

「…………クロスさん、聞いてきてくれます?」

「いいですがあ……これはアルさん本人が聞いた方がいいと思うんですけどねえ。仲直り的な意味も含めて」


 クロスの言葉にアルの機嫌は悪くなる。一般科の生徒から話しは聞いてきたが一人だけ、たった一人だけにはまだ話を聞きに行っていなかった。

 それはティルだった。アルはティルが気に入らないのリストに入れていた為、関わる事自体嫌っていた。


「あの方とは合わないんですよ……」

「それはそうでしょうねえ……でも仲直りぐらいはした方がいいのでは?」

「向こうが勝手に突っかかってきたのに仲直りもくそもありますか……」

「アルさーん、いきますよー」


 嫌がるアルにクロスは手を掴みティルの元に連れて行く。アルは「くーろーすーさーん、はなして。もういいじゃないですか」とこぼす。

 それをクロスは「はいはい」と軽く言いながらティルの元まで行く。


「ティルさーん。少しいいですかあ?」

「何か用か? これから用事があるんだが……」

「少しで終わるので付き合っていただけませんかあ?」

「……それならいいけど。えーと、用って?」


 ティルは足を止めて振り返り二人を見る。何故呼ばれたのか分かっていない様子で首を傾げていた。

 アルはもうここまで来たら……と思い口を開く。


「僕達に関する噂について知っている事はありますか?」

「噂? ……もしかして、あれか? 怪しい奴の……」

「それです。その噂を流した人は誰か知ってますか?」

「知ってるも何も、俺が流した」

「…………はあ????」

「ストップ! アルさんストップ!! 落ち着いてえ!」


 ティルのきょとんとした様子と言葉にアルは拳を振りあげ殴ろうとする。それをクロスが腕を掴み止める。

 アルはやっぱりこいつとは合わない!! と顔を顰めてから拳を降ろした。


「どういう事ですか、詳しく教えていただいても?」

「俺もそこまで詳しく知らないんだが。手紙にそう書いてあったから流しただけだから」

「……手紙、ですかあ?」

「そう。この手紙」


 ティルはそう言ってポケットから手紙を取りだす。それをクロスに渡し、クロスは内容を読み上げる。


「『クロス・シベリウスが不審な人物と接触している。アル・ミリエルに危険が及ぶ可能性がある。話を広めるように』……なんですかあこれ」

「貴方、これ信じたんです?」

「クロス様は何か裏があると思うだろ。だから俺は噂を流した」

「どうやって噂を流したんですか?」

「この紙を沢山増やしてバラまいた」


 ティルの言葉にアルは呆れを通り越して唖然としていた。馬鹿すぎでは……? お人好しってレベルじゃない……。とアルは額を抑えた。

 

「クロスさん、行きましょう。もうこの方に用はない」

「え、まあそうですが……」

「もう用はないんだな? じゃあ俺はここらで。クロス様、なんか申し訳ない」

「ティル様、信憑性のない話はまず疑う事から始めましょうね」

「ごめんごめん」


 申し訳なさそうに謝るティルにアルは自分のしてきたティルを守る行動が馬鹿らしくなってきていた。アルは嘘の笑顔を作り頭を下げて、クロスを連れてその場を去った。


「……はあ」

「まさかの話でしたねえ……僕、そんなに裏があるように見えますかね……」

「……悲しい。友達がそう、疑われるのは」

「そう言ってくれるなら僕は幸せ者ですねえ」


 くすくすと笑うクロスにアルも笑みを返し、ミリヤと合流しようと話をして交流広間に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る