【改稿予定】元暗殺者、現悪役公爵に転生。転生先も暗殺一族でした~学園で太陽のような彼女に目を奪われた。愛する者と友達と過ごす日々は楽しい~
蒼本栗谷
学園編
第一章
第1話
とある屋敷の一角に影が一つ。暗殺者がこの屋敷の主を暗殺しようと気配を消して走る。
毒を塗った短剣を握り目的の部屋まで行く。そして扉を開き中に入る――事は出来なかった。
「がっ――」
「……おやすみなさい。今夜限りのいい夢を」
暗殺者の首に刺さるは一本の注射器。液はすでに暗殺者の体内に入ったようで注射器に液は入っていない。睡眠薬を盛られた暗殺者はくらりと体が傾きその場に倒れた。
それをじっと見つめる一人の少年。注射器を抜き取り足につけてあるガーターベルト式のホルダーにそれを入れる。
そしてトランシーバーを取り出す。
「侵入者が主の部屋に来ました。回収お願いします」
それを言い終えてから少年は欠伸をしてその場から離れた――
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『ミルファード・ワールド』。通称ミルワドと呼ばれる異世界ファンタジー小説があった。売れに売れ、コミカライズが確定する程の人気作品があった。
獣人、エルフ、人間が共存する世界で、主人公は学園編で出会ったエルフのヒロインに一目ぼれをする。そんなヒロインがある日突然不治の病にかかり、ヒロインの為に主人公が願いを叶えて貰えるという噂のダンジョンに行き、ヒロインの病を治してもらう。恋愛要素も入っている物語だった。
そんな物語の中、学園編の中ボスとして存在する人間がいた。
アル・ミリエル。横暴な公爵。主人公と出会うたびに嫌がらせや、気に入らないからとヒロインや生徒に暴力を振るう、威圧的な人間。
教員はアルの行動を見て見ぬふりをして咎める事はない。好き勝手にしているアルだが、とある事が原因で主人公、ティル・キリシアと決闘をする事になった。
その決闘でティルは勝ち、アルを学園から追放した。その後は出てくる事がない学園編中ボス。
「……そろそろ入学式だっただろうか」
青い髪に首元まである黒色の触覚髪。首まである黒のノースリーブを着て自室で本を手に窓を見ながら呟く15歳の少年はその中ボスのアル・ミリエルだった。
アルは転生者だった。前世は暗殺者として飼い主の元で働いていた。
娯楽に触れる事が無かったアルは18歳の誕生日の時、飼い主から「娯楽は必要だろう」という事で一冊の小説を貰った。それがミルファード・ワールドだった。
初めて触れる娯楽。アルは物語に引き込まれすぐに一巻を読んでしまった。その後初めて飼い主に我儘を言って全巻買って貰った。そして何度も、何度も読み返した。
そしていつものように仕事を終え、ミルワドを読むために帰ろうとした時、敵の組織に奇襲をしかけられ対応が間に合わず殺されてしまった。
そして目を開ければ視界が低く、言葉が上手く出ない。アルは赤ん坊になっていて、更に両親の言葉から自分がアル・ミリエルだと知った。
「主達は僕がいない間無事に過ごせるだろうか。暗殺一族だから大丈夫だと思うけど」
アルがミリエル家に転生してから知った事。ミリエル家は裏では暗殺一族であった。暗殺者が暗殺一族に転生するなんて、運命だ。とアルは思った。
元暗殺者だった為、特に苦痛などを経験せずアルは暗殺者公爵としてすくすくと育った。
アルは本を閉じてクローゼットを開き、これからアルが三年間生活するシルベ学園の制服を着る。制服の内側には改造を施していて、短剣と注射器、そして錠剤入れのポケットがあった。
黒メインで白のラインが入っているそれはシルベ学園の一般科の制服だった。
シルベ学園には獣人科、エルフ科、一般科があり、それぞれ制服が違う。アルの着る一般科の制服は軍服に近い制服であった。
ネクタイをむずび、アルはその場で伸びをする。昨日深夜に暗殺者が入り込んで、それの対処をしたため少し寝不足だった。だがいつも寝不足な為アルは特に気にはしていなかった。
両親に挨拶をする為にアルは両親のいる執務室に向かう。
「お父様、お母様」
「あらアル。その制服よく似合ってるわ。もう行くの?」
「はい」
「アル、こっちに来なさい」
父親に呼ばれアルは言われるまま近づく。近づくと父親がアルの頭を撫でた。
「……? お父様?」
「学園では沢山楽しみなさい。お前の好きにやってみなさい」
「えっ……と」
「初めての学生生活なんだ。存分に楽しみなさい。何か不味い事があったらこっちでもみ消すから」
父親の言葉にアルは楽しむ。楽しむ? と心の中で反響する。だがいまいちピンと来ず困った表情をした。
「そこで幸せを知りなさい。そして今後どうするのか、よく考えなさい」
「考える……」
「だがくれぐれも暗殺者である事は出来る限り隠し通しなさい。よく考えて判断しなさい」
「はい」
「アル、おいで」
母親に呼ばれアルはそちらに行く。母親はアルを抱きしめ。頭を撫でる。
アルはどう父親の事といいどう反応すればいいのか分からなかった。
二人はそんなアルの事に気づいてか、優しい言葉をアルに投げかける。
「幸せになりなさい。いずれ貴方には家を継いでもらうのだから」
「アル。お前なら出来る」
「……はい」
母親から離れたアルは困った表情のまま「時間があるので失礼します」と頭を下げてからその場から離れた。
廊下を歩きながら撫でられた頭を触り、「幸せ、楽しむ……」とぽつりと呟いた。
ミルワドがないこの世界で幸せをどうやって得るのか分からないアルは眉を下げるしかなかった。
そのまま馬車まで向かい乗る。
窓の外を見ながらアルは「考える……好きにやる……」と呟いた。
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