58話
施設に入った三人は人気が少ない場所まで移動する。着いた時にはミリヤはしょんぼりとした様子で眉を下げていた。
近くに椅子があった為アルはミリヤを椅子に座らせる。
そこにクロスが動揺した様子で二人に話しかけた。
「えっとぉ……どうしたんです?」
「ミリヤが差別を受けた」
「うわぁお。それは……お気の毒ですねぇ」
「ううー……あんな事言わなくてもいいじゃん……私は保護しただけだし、傷つけてなんかいないよ」
ミリヤは手を握り絞めてむすっとした顔をする。涙を沢山流したせいで目元は赤くなっていた。その様子をアルは腕を組んで見つめた。
「覚悟はしてたけど、実際に言われるとびっくりするね」
「理想と現実は違うからな」
「うん。……アルくん、もう落ち着いていいんだよ?」
「……落ち着いてるが」
「落ち着いてないですねえ。殺気凄いですよお?」
クロスの言葉にアルは眉間に皺を寄せ、「はぁ?」は意味が分からないといった表情をするが、クロスとミリヤの困ったような表情にアルは少し考えたあと深呼吸をした。
「……そんなに、殺気出てたか」
「出てたよ。怖かった」
「ごめん」
「いいよー。私の為に怒ってくれてるって分かってるから。あ、そうだアルくん。リーシャちゃんのお母さん、殺さないでね?」
「なんで殺すと思ってるんだ」
「殺気凄かったから?」
アルはミリヤの言葉に何も言わずむすっとため息を吐いて踵を返す。二人はどうしたんだろうと首を傾げ声をかける。
「アルくーん?」
「頭冷やしてくる」
振り向かずに少し怒りの籠った声でアルは言う。そして次の言葉を待たずにその場から離れた。
道中学園の生徒や宿泊者とすれ違った。すれ違うごとにアルの方を見て首を傾げた。怒ってね? どうしたんだろう。あ、さっきの子だ、なんか機嫌悪い? などの声が背後から聞こえるがアルは無視した。
前はこんなに感情が動くわけじゃなかったのに、なんで、今になって……。とアルはもやもやを抱えながら考える。
「……楽しさを見つけたから?」
「――何がだ?」
もやもやの原因をぽつりと呟くと曲がり角から声が聞こえた。気配に全く気付かなかったアルはびっくりして足を止めるが、足が引っかかりその場に尻餅をついた。
どしんと勢いよく尻を打ち付けたアルは「いたっ」と声を漏らした。そして声のした方を見るとそこにはティルがいた。
「……ティル様」
「だ、大丈夫か?」
「大丈夫です」
ティルはアルに手を差し出す。アルは手とティルを交互に見てから手を取らずに立ち上がった。そしてティルから離れようとすると、ティルが慌てて声をかけてきた。
「なぁ! さっきの言葉ってなんなんだ?」
「貴方に言う必要性あります?」
「一緒に戦った中だろ? 教えてくれないか?」
「はぁ? なんでそれだけで戦わなきゃいけないんですか。何? また殴られたいんですか?」
「厳しいなぁ。まぁでも、一回腹割って話すべきだと思うんだ」
ティルはそう言ってまた手を差し出す。笑みを浮かべて自信ありげにアルを見つめる。アルはその目に嫌悪感を感じる。対して仲良くもないのにこんなことが出来るのか理解ができない。アルは心底嫌そうに顔を歪めてティルを見た。
ティルは「駄目か?」と先程と変わらない様子でアルを澄んだ目で見つめる。
アルはその目が嫌になってその場から走り出した。
「あ、アル様、待って!」
駆けだしたアルにティルは走って追いかける。アルはなんでついてくるんだ!? と苛立ちながら走るスピードを上げる。
それと同時にティルも走るスピードを上げアルに近づいてくる。
「ついて、くるな!!」
「じゃあ止まってくれ!」
「い、や、だ!」
「なんで!」
「貴方と話す事はない!!」
「俺は話したい!」
「断る!! しつこい!!」
アルは苛立ちながら外に飛び出し、施設の屋根を上ってティルの目から逃れる。
「アルさ――いない!? どこへ……!?」
外に飛び出してきたティルは焦った様子で周囲を見渡して、やがて諦めたように施設の中に戻って行った。
それを見届けてからアルは長いため息を吐いた。
【改稿予定】元暗殺者、現悪役公爵に転生。転生先も暗殺一族でした~学園で太陽のような彼女に目を奪われた。愛する者と友達と過ごす日々は楽しい~ 蒼本栗谷 @aomoto_kuriya
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