57話

 ミーティアの近くまで行って、アルはミリヤを見つけると名を呼んだ。


「ミリヤ!」

「アルくん! お母さんは見つかった?」

「ああ、この人だ」


 アルはそう言って女性に向く。そして異変に気付いた。女性は顔を真っ青にして、口を開閉させる。

 ミリヤは「大丈夫ですか?」と心配そうに聞く。アルは女性の様子にまさか。と嫌な予感を覚える。

 そしてアルの予感は的中した。


「獣人が私の子を触るなんて!!! 汚らわしい! リーシャ! こっちに来なさい!」

「え?」


 女性は顔を真っ赤にしてミリヤからリーシャを離し、ぎゅっと守るように抱きしめミリヤを睨みつける。

 ミリヤは突然の出来事に理解が追い付いていなく、女性を見て「え、なに、え?」と混乱していた。

 

「お母さん?」

「リーシャ!? どうして獣人に近づいたの!? 貴方が怪我したらどうするの!? お母さん言ったでしょ、人間以外の種族には近づくなって!!」

「え、え? お姉ちゃん、私に何もしてないよ……? お、お母さん、落ち着いて……?」


 リーシャは母親の状況に理解が追い付いていないのか、困惑した様子で母親を見つめる。

 母親の怒鳴り声に周囲はなんだなんだ? とアル達に視線を向ける。

 どういうこと? 獣人かぁ……。ねえ誰か警備兵呼んできてよ……。と周囲のざわめきが増していく。

 母親はキッとミリヤを睨みつける。


「獣人は獣人らしく、討伐されなさいよ!! なにのうのうと生きてるのよ!!」

「わ、私は、リーシャちゃんを助けたかっただけ!! 討伐される事はしてない!!」

「獣人に助けてなんて言ってないわ!! ああいやだ、獣人が私の子の名前を呼ばないで!」


 女性はミリヤに怒りを飛ばす。ミリヤはそれに必死に対応するが、女性の怒りは高まっていく。

 周囲は、差別者かぁ。獣人が我が子を触るなんていやよねぇ。あの女、娘を助けてもらったのにこの態度はないんじゃねえの? 等の話が上がる。

 アルはそれを見ながら段々と苛立ちが高まっていく。それと同時に、この数の人間の記憶を消すには……と考え込む。

 そして遠くの方から別の騒がしさが聞こえ始める。警備兵がこちらに向かって来ていた。

 アルはその騒がしさを耳にして、魔法を発動する。


「『ダークネスルーム』『フラワーハピネス。忘れ花・眠り花』――ミリヤ、ここから離れるぞ」

「あ、アルくん、わたし……」

「後で聞く」


 ハンカチをミリヤの口元にもってきて花粉を吸わないように暗闇空間から離れる。

 空間はこの場にいる全員を囲うようにして逃げ出さないようにする。

 そして花を空間の中を充満させる。

 一人、また一人、ばたりとその場に倒れ込む。

 その隙を見てアルはミリヤを抱いてその場から離れて施設に向かった。

 腕に抱かれているミリヤは涙を流してううう……と声を漏らす。覚悟はしていたが、思った以上に精神にきていたようだった。

 アルはそれを見て先程の女性に対して殺意と、やっぱり行かせるんじゃなかったと後悔する。

 そしてある程度離れてから魔法を解除する。

 そのまま施設に向かうと丁度クロスが外に出てきた様子が見えた。


「クロスさん!」

「――アル……は!? ミリヤさん!? どうしたんですか!?」

「話はあと!!」

「え、ええ、分かりました」


 アルは飛び込むように施設に中に入った。

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