54話

「おお……」


 アルは海に足をつけて冷たすぎず、温かくすぎずの適度な温度に声を漏らす。

 パシャパシャと足で水を蹴って、ゆっくりと中に入る。

 ミリヤは先に海に入ってアルを待っていた。太腿の位置まで使った状態でアルを見ていた。


「アルくーん、こっちだよー」

「ちょっ、ちょっと待って、すぐ行く」


 アルはミリヤの近くまで行って後ろを向く。


「クロスさん、来ないのか?」

「後で行きますのでお二人で楽しんでください~」

「海だぞ?」

「海ですねえ」

「面白いのに?」

「それはよかったですねえ」


 クロスはニコニコと微笑んだまま浜辺に座っていた。アルは何故来ないんだ。面白いのに。と首を傾げたが、クロスさんがそういうならと思いミリヤの方を向く。

 するとばしゃと顔に水がかけられる。


「わっ……!?」

「あはは、アルくん、隙だらけだよ」

「やったな……!」


 笑うミリヤにアルはお返しに水をばしゃとかける。

 水が当たり、きゃっ! とミリヤは驚きと楽しさに笑顔になり、アルに水をかける。

 同じようにまたアルも水をミリヤにかけ、二人はきゃっきゃっと水をかけあい遊ぶ。

 

「楽しそうですねえ……」


 その様子を遠くで見ながら、楽しそうな二人にクロスは嬉しい気分になった。


「あ、アルくん、一回やめよう……つ、疲れた」

「そう、だな……」


 暫く水の掛け合いで遊んでいたが、疲れが来たため一度遊ぶのを中断する。

 ミリヤは太腿に手を当てた状態で、アルに視線を向ける。


「アルくんの体、傷だらけだね。クロスくんも傷だらけだったけど……」

「ああ、これか。家の教訓でこうなった。クロスさんも同じだと思う」

「家の教訓でそうなるって……厳しい家なんだね……」

「地位が高いから、しっかりしないと恥になるからな。まぁ、学園生活は楽しめって言われてるからそこまでしっかりはしてない」

「地位が高い家に生まれると、好き勝手出来るイメージあったけど、そうじゃないんだね」

「自分の行動一つで一家に恥を塗る事になるからな……下手な事は出来ない」


 アルの言葉にミリヤはへえーと頷く。この話をしながらアルは、元々のアル・ミリエルは何故あんな暴君だったんだ。ますますあれが分からなくなると思った。

 権力を振りまいて、暴力を振るう。どう考えても一家に恥を塗っているのに……。そう思いながら、アルはミリヤを見る。

 アルの視線に気づいたミリヤは首を傾げ「どうしたの?」と声をかけた。


「……クロスさんを海に入れよう」

「ん! いいね! 折角の海だからクロスくんにも楽しんでもらわないとね!」

「うん」


 頷きあってニヤリと笑って、二人はクロスの元に行く。

 クロスは近づいてくる二人にどうしたんでしょう? と首を傾げる。


「どうしたんですかー?」

「クロスさん、行こう」

「……どこに?」

「楽しもう!」

「え? ちょ、ちょっと、なんで腕掴むんですか?!」

「そーれ」

「そーれっ!」

「ちょっ……うわああああ!?」


 ばしゃーんとクロスは二人に海に投げられた。

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