55話
海から上がった三人は更衣室に向かって服に着替える。
着替えながら体全てが濡れたクロスが髪留めを外しながら、いつもと違う低い声でアルに話しかけた。
「海に投げ捨てる人、いますぅ?」
「いや、あの、ごめん」
「びしょ濡れなんですが???? 髪までびしょ濡れですが????」
「あの、その……つい」
クロスは背中辺りまである髪をタオルで拭いてから体を拭き始める。
アルはそれを横目に足をタオルで拭く。
そして二人が着替え終わった後、クロスはすんすんと体を匂った。
「海の匂いついてませんよね……戻ったらお風呂に入らないと……」
髪も一度綺麗に乾かさないと……。と小さく呟きながらクロスはしょんぼりした顔をしたが、「まぁ……楽しかったので……いいかぁ……」と呟いた。
その後ミリヤと合流して三人は今後の方針を話し始めた。
「この後どうする」
「どうしましょうかねえ……何か食べるとしても、この状態じゃ駄目ですしねえ。施設に戻りますかぁ?」
「それがいい……のかな?」
「というか戻りたいです。髪を乾かしたいです」
髪を触りながら嫌そうな顔をするクロスに二人はすぐに頷いた。自分達が招いた結果な為、申し訳なさが勝ってしまっていた。
そうして三人で施設の方向に向かっていると、泣いている子供の姿が目に入った。
「あの子、近くに親がいないみたいだし、はぐれたのかな……?」
「迷子か」
「私、あの子の親探してくる!」
「待て」
子供に向かって駆け出そうとしているミリヤの腕をアルは掴む。
「わっ、アルくん? どうして止めるの?」
「この街の事は知らないだろ。探しに行って逆に迷子になったら困る。あの子は別の方が親を探してくれる」
「でも、もしあの子に何かあったら、私……嫌だよ」
「無関係の人間の世話をする必要はない。それに、あの子の親に差別でもされたらどうするんだ。助けなきゃよかった。そう思うようになる」
「え?」
眉間に皺を寄せた状態でアルは言う。
アルはミリヤが嫌な思いをさせたくない。そう思った。
獣人、エルフは一部の人間から差別を受けていた。それをアルは知っていた。だから学園でも学科を分けている事も納得していた。
人種差別をされ、傷つかないように。だけど一部の場所のみ交流はさせてくれるし、学園側も共同授業で差別をなくそうとしている事。それが大問題を起こさせないようになっている事も。
「差別って、どういう事?」
「獣人が私の子を触った、魔物になってしまう。一部の人間はそう言って差別をしている」
「それ、昔の事でしょ? 今は、違うでしょ……?」
「一部の人は頭硬いですからねえ……まぁ、している人はいるんじゃないですかぁ?」
二人の言葉にミリヤは絶句する。
そして子供の方とアル達を見て一呼吸置いてから口を開いた。
「――それでも、差別されてでも、私は、あの子を助けに行くよ。そうしないと、後悔する」
「……分かった。僕もついて行く」
「いいの?」
「最悪何かあってもこっちの権力使えるし、記憶を消す事も出来る。どうとでもなる」
「凄い言葉聞こえたけど……?」
「気のせい」
話す二人の様子を見ていたクロスは「僕は先に戻ってますねえ」と言ってから施設に戻って行った。
残された二人は顔を見つめ合ってから、「じゃあ、行こっか!」と子供の元へ向かって行った。
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