第1章

1節.陰キャオタクによる初配信

第1話.陰キャオタクはVTuber

 最近、世の中では【VTuber】なるものが流行っている。


【VTuber】。それは、ネット動画配信サービス【MyTube】で、生身の体ではなく二次元キャラのイラストを動かしたり、3Dのキャラクターを使い動画配信を行うコンテンツだ。


 これは、そんなVTuberを大好きな、1人の物語である。






     ☆






 キーン、コーン、カーン、コーン──。


「ふわぁ……。やっと終わったぁ……」


 5時間目の終わりを告げるチャイムが聞こえ、重たいまぶたが下がらないようにしながら、僕は体を起こした。とか思いつつも、帰りの会の時はもちろん寝るけどね。



 僕の名前は、吉村凪よしむらなぎ。なぜか1度も体調を崩したことがないこと以外は、普通の、いやごくごくふつ〜の陰キャオタクの高校生だ。こうやって、自分で自覚できるくらいには。成績は、上の下。ふっ、授業中寝ててもこの成績だよ? 僕ってば天才!



 とまぁ、クラスでは絶対に口にできないであろうセリフを頭に浮かべながら、黙々と帰りの準備を進めていた。


 なんでかって? 当然だろう? 友達はほとんどいないからね!


 ………。

 ………………。


 あれ、おかしいな? 自分で思っておきながら涙が出そう……。

 ちっ、違う! 目から汗が出ただけだ!


 ──うん、1人芝居は悲しくなるだけだな!今すぐやめよう!


 あと、すっごいどうでもいいけど、目から汗ってどういう状況?


「───ねぇねぇ、これ見て! めっちゃ良くない?」

「うわぁ! なにそれ、可愛い〜!」

「それどこのやつー?」


 ───拝啓、神様へ。私は、いつ、どこで、何をしたら、陽キャになれたでしょうか? あぁ、神の御慈悲おじひのあらんことを!


 うーむ、やっぱり現実って難しいな……。


「おいおい、そんな顔してどうした? そんなに俺の顔が見たくなったのか?」

 ‹ちっ! 陽キャが!›

「ん? 何か言ったか? 言ったよな? 聞こえてないと思ったか? ん?」

「祐希、途中までは良かったのに、最後のセリフで台無しだよ、って言っただけだよ?」

「おい! 舌打ちから全部聞こえてるぞ! 文字の数すら違うじゃねぇか!」


 ──青山祐希あおやまゆうき。僕の唯一とも言える友達だ。髪は短めで、見た目通りの運動神経の良さ。成績も僕と同じく、上の下くらい。ただ、こいつは陽キャ側、そこだけが僕と違う。祐希から僕に話しかけてきて、僕と同類のオタクだとわかったらから仲良くなれた。


「まぁそれはそうと、昨日のこのちゃんの配信見たよな! やっぱ、可愛いよなぁ……」

「いや気にしてないんかい。昨日はちょっと忙しくて、リアタイで見れなかったんだよね〜」

「なんだと? 凪よ! 推しの配信はリアタイで見ることにこそ意味があるだろう!?」

「それはわかるけど、ちょっとうるさい。昨日はいつも以上に忙しかったんだって」


 紫ノ宮しのみやこの。僕と祐希、2人の推しだ。銀髪でツインテールで可愛らしいイラストをしている、ミックスライブ所属のVTuberだ。イラストと声が完璧に合わさっており、たくさんのリスナーを魅了してきた。そのせいもあってか、配信開始1か月でチャンネル登録者数10万人を超えた人気VTuberである。


 はぁ、僕のリアタイで見たかったなぁ……。でも昨日は、ほんとに忙しかったんだから。


 だって今日は──。


「そういや、今日から神宮寺零じんぐうじれいっていう個人が配信始めるらしいぞ。イラストかっこよくておすすめだから、今日はリアタイで見るんだぞ!」

「え? う、うん。もちろんだよ!」


 まさか、祐希からその言葉を聞くとは思わなかった。


 その言葉への驚きで眠気が吹っ飛んだ僕は、帰りの会を寝ないですんだ。






     ☆






 午後8時45分。


 お風呂とご飯を済ませて、僕はゲーミングチェアに座り、パソコンの電源を入れた。あ、スマホとかの通知も切っておかなくちゃ。


 もろもろの準備を済ませていたら、気づいたら9時を迎えていた。


 僕は気持ちを切り替えて、マイクに向かって口を開く──。


「皆さん、こんにちは! 皆さんに笑いと感動を届ける、神宮寺零ですよ! 本日は、私の初配信に来ていただいて、ありがとうございます!」




:こんにちは!

:こんにちはです!

:同接1万人じゃん!

:え! イラストかっこよすぎない!?

:いや、初配信にしては堂々としてんな

:ただの初配信に人集まり過ぎだって……

:まぁ、何故か今他のVの配信がないからな




 僕は画面の前の視聴者に挨拶をした。


 同接は1万人かぁ……。初めてだし他のVの人の同接数とか確認しない主義だったから、多いのか少ないのかわからないけど、陰キャオタクな僕が1万人もの人と話しているなんて……!




 ───これは、彼──吉村凪が、現実が難しすぎて始めたVTuber、神宮寺零による物語である。










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