第9話.天使と友達になっちゃったよ

 日も落ち始め、6月ということもあってか少し肌寒くなってきたが、話が終わる気配は全くと言っていいほど無かった。


「天使もVTuberを見てるんですか!?」

「そう言ってるでしょうっ! あと天使はやめてください……。他の人に言ったことはないですけど、そのあだ名苦手なんです……」

「あぁ、そうだったのか。それはすまないな。でもオタク仲間になってからも名字呼びはなんかなぁ……。これから藍沢さんのことなんて呼ぼうか。凪もなんか考えてくんね?」


 今日は早く帰ってみーちゃん(※みかの愛称)とのコラボについて話さないといけないから、早めに帰っておきたいんだけどなぁ……。


「ん? お〜い凪〜? 聞こえてるか〜?」


 ただの個人に過ぎない僕とみーちゃんがコラボとなると、絶対荒れるだろうからね。こういうのは早めの準備が大切なんだよ!


 ──そんなことを考えていると、花のような香りがする優しい風が吹いた。




「凪くん。お友達が呼んでますよ?」




 本物の天使のような囁き声で鳥肌が立つ。


 気がついたときには僕の耳元にまで近づいていて、まるでasmrのような声で僕にそう言った。この囁き声は絶対始めてじゃないでしょ!


「ふぁ、ふぁい!」

「草、じゃなくて藍沢さんのことなんて呼びたい?」

「草はひどくない? 草は。てか、なんでそんな会話に……?」


 べ、別に何も聞いてなかった訳じゃないんだからねっ!


「……何も聞いてなかったな」


 そりぁ、ばれてますよね〜。


「えっとですね……私が天使と呼ばれるのが苦手ということと、祐希くんが名字呼びはやめたいと言うことでして」


 ほんのりと頬を赤らめながら話した。流石に耳元で囁くのは恥ずかしかったんだろうね。僕も恥ずかしかったし。


「祐希が考えてよ! 僕がそういうの苦手なの知ってるでしょ!」


 神宮寺 零だって結構考えたんだよ?


「悪い悪い、お前の陰キャを克服させようと思ったんだが無理だったか」


 うっ……そう言われると断れなくなるやつじゃん……。


「うーん……藍沢実、でしょ? ……なら、みのは? これなら僕もまだ呼べるし……」


「私は全然いいと思いますよ」

「うっし! なら決定! それじゃあ改めて、みの。よろしくな!」

「うん、これからよろしく!」


 なぜだろう、みのとならもうそんなに緊張しなくなってきたなぁ……。


 加えてなぜだろう? 話すのが初めてじゃない気がするような……。


「えぇ、よろしくお願いしますね」


 みのはそう言って微笑む。


 ま、気の所為だよねっ!











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