第65話.彩良さんと話します 2

 彩良さんはお茶を飲み、僕たちの事実への驚きを落ち着かせる。


「いや、落ち着きませんよ?」


 落ち着かないらしい。


 まぁそれもそうか。突然目の前に相談した相手が現れたんだからね。


「もしかしてですけど……やっぱり縦読み気づいてくれてたんですか?」


 よかったああぁぁぁ! 奇跡的に完成した縦読みじゃなかったああぁぁぁ!


「不自然な文章だったし、それ以前に初配信から僕たちは違和感を感じてたからね。チャットにちょっと注目してみてみたらすぐに気づいたよ」

「ナイストライだったぞ」

「やっと……気づく人が出てきてくれた……!」


 そう言って、彩良さんはまた泣きそうな表情になる。


 泣き出したらしっかりと対応できるように準備しながら考える。


 みずなに会えたってのは確かに大きいんだけど、証拠にはならないからなぁ。やっぱりもっと決定的な証拠を掴むにはを使うしかないのかな。


「彩良ちゃんともうちょっと話してあげたいところではあるんだが、多分そろそろ怪しまれるんじゃないか?」

「……そう、ですね……。そろそろ帰るとします。今日は食べ物とかありがとうございます! 次買い物に行くのは日曜日ですけど、また会えたら嬉しいです……!」

「あ! その前にこれあげるよ」


 そう言って僕は、可愛らしい刺繍のついたハンカチを渡す。


「え……いいんですか?」

「もちろん! 多分だけど、彩良さんは親からプレゼントされたことがなさそうだし……」

「……ありがとうございます! ずっと……大切に、しま……す、ね……!」


 そこまで言い切ると、彩良さんは耐えられずにまた泣き出す。


 ……僕としては、泣かれるとちょっとになるんだけど。


 彩良さんは家に帰った。そして、すぐに祐希が近づいてくる。


「……負い目は感じなくていいからな。さすがに証拠が足りなさすぎる。これも彩良ちゃんを救うためだ」

「……うん、ありがと」


 これはもちろん、渡したハンカチに関する話。


 あのハンカチ──正しくは、ハンカチの話。


 ましろさん作の特別なハンカチだった。










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