第64話.彩良さんと話します 1

 夏も本番になってきて、日照時間も伸びてきたため、まだまだ暗くなることを心配する時間にはならない。


「ご飯が……美味しい……!」

「いやぁ……マジでそのレベルなのかぁ」


 あの後泣き止んだ彩良さんは、僕たちが買っておいた食べ物と飲み物をすごい勢いで消費していった。


 もちろん、彩良さんのために買ったものなので何の問題もない。むしろ、しっかりと食べてくれる姿を眺めて、母性が湧いてくるほど。


 それはそうと。


「さて。彩良ちゃん、ちょっと聞いてほしいことがあるんだがいいか?」

「ふぁいふぉ〜ふふぇふふ大丈夫ですよぉ!」

「あ〜、うん。まぁ食べながらで聞いてくれ」


 そう会話して、祐希はこちらに視線を向ける。僕はその視線に頷きで返す。


 そして彩良さんの方に視線を向ける。


「ちょっと、僕の方から聞きたいことがあるんだけど……」

「? ……ごくん。どうしました?」

「前に祐希からチャットで助けを求めてるって聞いたんだけど本当?」

「本当です。……はむっ」

「……実は僕、前にチャットで助けを求められたことがあるんだよね」

「!? ……んぐっ!」


 彩良さんは驚きのあまり、おにぎりを喉につまらせる。


 すぐにお茶を飲んで回復はしたものの、やはりまだ驚きを隠せていない。それはそうだろうね。


 だって、多分だけどVTuberにしか求めたことないだろうから。


 これが身バレにつながるって思う人もいるかもだけど、これは大丈夫。少ないかもだけど、助けを求めるのはみずなだけじゃない可能性だって全然あるからね。


 だから、これで彩良さんが──。


「……もし違ったらごめんなさいなんですけど、なにか配信活動とかってしてます……?」


 はい、確定演出もらいました。


 あとは祐希の判断を待つのみ。ってか僕、身バレせずに聞くの天才的すぎたかもしれない。ふっ!


 久しぶりの脳内1人演技をしていると、早速祐希が。


「やっぱりか。みずな、だな?」

「え、な、なんでわかったんですか?!」

「祐希? もう言っちゃってもいい?」

「ま、いいんじゃね?」


 僕は周りに人がいないことを確認してから、少し小さめの声、しかししっかりと零だと分かる声で彩良さんに言う。


「彩良様、こんれい。ミックスライブ所属の神宮寺零ですよ」

「同じくきゅいあだぞ」

「……え、……ん、え!?」


 そして、僕たちはなんの躊躇もなく自己紹介をする。










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