3節.彩良さん

第63話.例の少女と会います

 木曜日。


 どうやら例の少女は、日曜日と木曜日に買い物に来るらしい。なので、僕と祐希は例の公園で待っておくことに。


 ちなみに、僕たちは今1人分以上の食べ物と飲み物を抱えている。もちろん、彩良さんに分け与えるためだね。


「凪、一応まだみずなじゃない可能性も全然残ってるから、身バレにつながるような発言は気をつけろよ?」

「逆にこれでみずなじゃなかった場合、おんなじ感じの境遇の人がたくさんいるっていう事実のほうが怖いんだけど……」

「それはたしかに」


 いやいや、冗談っぽく言ってるけど、ほんとにこれでみずなじゃなかったらどうしよ……。


 まぁそうだとしても、こんな境遇の人を見捨てることは僕も祐希もできなんだけども。


「ただまぁ、今日でみずな本人かどうかは確定させたいところではあるけどな」

「身バレにならないように聞いてみるよ」


「あ、あの……」


 祐希と話していると、弱々しい女性の声が聞こえた。


 そちらに視線を向けてみると、フードを目深に被った少女がこちらにてくてくと歩いてきていた。おそらくだけどあの人が──。


「彩良ちゃん! 大丈夫か? また傷増えたりしてないか?」


 祐希が少女──彩良さんの方に近寄る。


「はい、多分大丈夫だと思います……。といっても、彩良の感性なら、なので、お兄さんたちから見たらアウトなんでしょうけど……。で、でも、今度はお兄さんのお友達も連れてきてくれるって言ってたから、少しだけ気が楽でした!」


 そう話しながら彩良さんはフードを外す。って、ほんとだ……すごい傷の量……。


 でも、その割に元気そうなのは、やっぱ祐希の接し方が大きかったんだろうね。


 前にたしか祐希が自分で言ってたっけ。「俺は人の心をつかむのが得意らしい」って。


 そのときはいまいち分からなかったけど、彩良さんの様子を見るに、こういうことなんだろうね。


 だからこそ僕も、おそらく祐希がしたであろうことと同じことをする。


「はじめまして、彩良さん。吉村凪といいます。祐希から話は聞いてたけど、ほんとに大丈夫そう? っていうか、はじめましての僕は大丈夫そう?」

「……多分、お兄さんの友達って聞いてなかったら拒絶してたと思います。けど、そうじゃなかったのもあるけど! 今話してくれて分かったんです。お父さんみたいな人じゃない、とっても優しい人だなって」


 やっばなにこれ。心が温まりすぎるんだけど……。


「さてと、彩良ちゃんと凪が仲良くなれたところで早速本題に──」

「祐希、その前にこれが必要じゃない?」


 そう言って、僕は手に持っていた食料等が入った袋を持ち上げる。


「っと、たしかにそうだな」

「えっと……それはなんですか?」


 当然のように彩良さんが首をかしげる。


「祐希から聞いたんだけど、彩良さん、まともにご飯も食べれないらしいからね。プレゼント」

「え……い、いやいや、いいですよ! 別にお腹が空いてるわけでもないですし……」


 口ではそう言っても体は正直なもので、小説のようにタイミングを見計らったかのごとくお腹の音がなる。


「彩良ちゃんはな、まだそんな無理をするような年じゃないんだ。こういうときは年上に甘えるってのも、これから覚えていこうな」


 少し笑いながら彩良さんにそう伝え、頭を優しく撫でる。


「……っ! ……あ、ありがとう…………ございます…………!」


 それにより彩良さんは耐えきれなくなったのか涙を流す。


 それを見守り、そばにいてあげることが、僕たちのできることだよね。










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