第54話.奇跡か偶然か、それとも神のいたずらか

「……なるほどね」

「凪、大丈夫か? 多分、凪が嫌いなやつだと思ったが……」

「……苦手ではあったけど、大丈夫だよ。ありがと」


 そう口で言いつつも、ああいう偶然じゃなくて、意図的に炎上させようとするのは、正直少し、いやかなり苦手ではあった。


 でも、ちょっとだけ気になったのが。


「途中さ、なんか様子おかしくなかった? 気の所為かもしれないけど」

「様子? いや、俺は特に感じなかったな」

「じゃ、多分気の所為だね。なんでもない」


 途中、ちょっとつまった感じというか、今思うと声も震えてた気もするけど。


「……あの人の掲示板、見てみていいかな」

「……それこそ大丈夫か? 掲示板のほうが配信より荒れてるぞ。俺は結構心配なんだけど」

「大丈夫だって。気分悪くなったらすぐに見るのやめるしさ。それに……ちょっと気になることもあるし」

「……わかった」


 祐希の、"実は優しいです"がたくさん出てる。


 祐希の優しさに少し嬉しく思いながらスマホを開く。と、同時に新着メッセージが届……──ッ!


「どうした、凪? そんなに眉寄せて。なんかメール届いたみたいだけど、その顔ってことはミックスライブじゃないのか?」


 つい、そのメッセージの送り主の名前を何度も確認してしまう。しかし、当然ながら何度見ても変わることはない。


「凪? 聞こえてるか?」


 嘘でしょ? 次は僕なの……?




「凪ッ!」




 祐希の両手で頬が強く包まれ、その大きな声でやっと気づく。


「あ、ご、ごめん……。どうしたの?」

「いやいや、それはこっちのセリフ。どうかしたのか?」


 ……僕は少し伝えるのをためらったが、正直に伝えることにした。


「……コラボ依頼だよ」

「コラボ? いいことじゃないか。それにしては焦ってた気がするけど。誰となんだ?」

「……、とだね」


 そう伝えると、すぐに祐希も僕と同じような表情を浮かべる。


 DMの内容はこんな感じ。


 〔零さん、はじめまして。みずなの父親です。娘はまだ中学生なので、こういうのは私がしているんですよね。それはさておき、零さんには是非ともみずなとコラボしてほしい、というのが今回のDMの本題です。娘と同じ日に初配信をされた時は驚きましたけど、よければみすなの同期としてコラボしていただけませんか?〕


 ──ありえない。


 この文面を見た瞬間にそう思った。


 でも、今祐希に呼ばれたことで少し冷静になって考えてみると、これを送ったのはということに気づく。


 そして、配信のときに気になったこと……。


 ──もしかして、みずなは父親に何らかの方法で強制的に……?


 今はまだ確証もないただの仮説。僕の勝手な妄想。


 だけど──1%でも可能性があるかもしれない人を、親にいじめられてるかもしれない人を、僕は見捨てられない。


「凪。さすがに断るよな? あれだけじゃなくて、もう既に個人も2、3人引退してるんだ。このコラボだけは絶対に──」

「──まだ受けるかはわからないけど、少し考えたいかも。ちょっと気になることがある」


 僕はそう祐希に伝える。


 時間も遅くなってきたし、そろそろ祐希も帰るだろうと思い、立ち上がる。


 と同時に、「はぁー…」というため息が聞こえた。


 それが聞こえて、思わず祐希の方を振り返る。


「とりあえず、ため息は酷くない?」

「いやそこかい。もっとツッコむところあっただろ」


 それはさておき。


「それで、どうかした?」

「まず先に謝ることがあるわ。配信でおかしいところないっていったろ? あれはお前の初配信と2窓してたときに、俺も気づいてたんだよ」

「ならどうして嘘を……」

「多分、お前が考えてたのと同じ感じのを俺も思ったんだよ。まぁ、父親かまではわからなかったけど。んで、俺もお前と同じで真実を突き止めたい。でも、これは明らかに危険もある。なにせ、何人か引退させてきたようなやつ相手だからな。そんなものに、親友を巻き込みたくないって思うのはそんなに変か?」


 ──ほんとに、泣きそうになった。


 僕が言葉に詰まっていると、祐希が切り出す。


「ただ、凪だってそこまで考えたならもうやめないだろ?」

「もちろんだよ。こんなのを見捨てられるわけがない。だけど僕も他の人は巻き込みたくない」

「んじゃ、決まりだな。俺と凪、2人でみずなを救うぞ!」

「うん!」


 絶対にみずなは助けるし、もう誰も引退なんてさせない!


 そうして、凪と祐希によるみずな救出作戦が幕を開ける。




「ここまで意気込んで、なんもなかったらつらいし、イタくね?」

「祐希、気づいちゃだめ」

「お、おう」










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