第41話.ネッタークイーンの暴走
「そのイラストのデータ、一回全部私に渡して」
「「「「「え?」」」」」
──どうしてこうなったのか、一回思い出してみよう……。
★
僕たちが本社内に入ったあとは、「一旦ここで待っていてください」と最上さんに言われ、応接間にある椅子に座って待っていた。
「いや〜、みんなどんな感じのイラストになっているんだろうな〜」
「そういえば、お兄ちゃんのイラストは今までのままなの?」
「だよね? みあ」
「うん、新しく描いたりはしてない」
「まぁ、3Dモデルはできちゃってるんだがな……」
「わたしたちは、さすがに2Dまでですから、おそらく凪さんの3Dお披露目は当分先になりそうですけどね」
っていうか、2日ってほんとに何をしたらできるんだろう……。
「あっ、そういえばちょっと前に社長さんからDMが届いたんだけど、デビュー配信で3期生全員で歌う曲作ってくれって頼まれたんだよね〜」
「おっ、マジで!?」
「すごい……Rinaが作る曲が私たちのオリソンになる日が来るなんて……」
「りーは社長からも頼まれるなんてすごいなぁ……」
「えへへぇ〜!」
「おっと、唐突なブラコンシスコン」
「これもなにかの縁かもしれないし、イメージイラスト描いてあげようか?」
「えっ、ほんとに!? みあっちなら大歓迎だよ〜! あとで曲のデータ送っておくね!」
「り」
いや、現実でも「り」って言う人は少ないでしょ。
それにしても、りーが作ってくれる曲か〜。最高すぎない?
そうして話していると、最上さんともうひとり。ここに来るまでに話に上がっていた、黒田さんというミックスライブのイラスト部門総責任者の方と思われる人が歩いている。
「お待たせしました。あ、こちらが先程も言いました黒田さんです」
「ども〜」
20代くらいの若い男性の方で、話し方からわかるようにおかたい感じがしない人だね。話しやすくて助かる。
「ほんと、集めておいて申し訳ないんですけど、まだ仕事が残っているのでまた帰るときに……」
「あ〜、そりゃそうですけね。わかりました」
最上さんは僕たちに謝りを入れても、まだ申し訳無さそうな表情を残しながら応接間を後にした。
「よしっ! それじゃ、気を取り直しますて。え〜っと……凪くんと祐希くんと優奈ちゃんと璃奈ちゃん、だったかな? あと深空ちゃんもだね。今日はよろしくね〜」
「「「「よろしくおねがいします!」」」」
「あ、でも凪くんはそんなに関係ないかもしれないな〜」
「まぁ、この3人の2Dモデルですもんね。でも、僕も3期生の一員なので」
「そう言ってもらえると助かるよ〜。じゃあ、主役の3人。準備はいいかな?」
パソコンにUSBをさしながら、黒田さんが言う。今イラストのデータを読み込んでいるのだろう。
「どんな感じなんだろうな〜」
「楽しみ……」
「わくわく……!」
「せ〜の、どん!」
そんな効果音を口で出しながら、黒田さんはパソコンの画面をこちらに向ける。
「「「「わっ……」」」」
おぉ……すっごい! 事務所専属の絵師さんがいることにもかなり驚いたけど、さすがはミックスライブ。そのレベルも桁違いだ……。
まずはじめに、きゅいあさんのイラスト。
見た目は高校生くらいのイラストで人形なんだけど、人間ではなかった。おそらくこれは、吸血鬼をイメージしているんだろうね。礼服の上に黒いマントを羽織っていて紅眼という、いかにも中二病チックなイラスト。でもかっこいい。これは確かにきゅいあさんに合いそう!
次に、そうらさんのイラスト。
黒っぽいジャージを着ていて、なんというか、いかにもゲームうまそうって感じがする。あと、この緑の髪に水色の眼ってコンビがめっちゃいい……! このイラストでいつもみたいに「変態さん」とか言ってるのが想像できるなぁ。
最後に、Rina。
シンガーソングライターという特徴から、ヘッドホンを首につけてギターバックを背負ってるという、いかにも! って感じのイラストで最高なんだけど!
そんなことを考えながらみんなも見てみると、僕みたいに感動していた。
──そうしていると、突然みあが立ち上がった。
「そのイラストのデータ、一回全部私に渡して」
──そして冒頭に戻る。
「「「「「え?」」」」」
え? ちょっ……ん???
「え、え〜っと、深空ちゃん? どうかしたのかな?」
僕たちがみあの言葉にまったく動揺を隠せていない中、唯一の大人である黒田さんはさすがの対応力。すぐにどういう意図かみあに尋ねる。
「このイラスト、私にもう一回書かせてほしい」
一歩も引かないぞ、といった雰囲気をまとうようにみあ。
どうしたんだろう? 本職がイラストレーターだからなにかこのイラストに気になることでもあるのかな……。
それにしても、みあも攻めたこと言うなぁ。さすがに許可が降りるわけが──。
「まぁ、深空ちゃんなら間に合うだろうし本物のイラストレーターだからいいよ〜。やっぱり、本職がイラストレーターじゃない人のものだと、気に食わない部分もあるだろうしね〜」
え、ん? ちょっとまって、あまりに話がスムーズに進んでてわからないんだけど?
「ありがとう。ただ、さすがに配信までの時間がギリギリだから、今日はもう帰ってもいい?」
「ん〜、大丈夫ですよね、最上さん?」
……ん? 最上さん? なんでこの狙ったかのようなタイミングでいるの!?
「えぇ、どのみちみんなももうすぐ帰りますからね」
「助かる」
そう言って、みあはさっそうと帰っていった。僕たち4人は、何が起きたかまったくわからないまま。
「……え、黒田さん、最上さん。よかったんですか? 多分みんな同じこと思ってますけど……」
「あはは〜、全然大丈夫だよ〜。だって、これを狙ってたんだもん」
「うまくいってよかったです」
「「「「え?」」」」
「あはは、ネタバラシだね」
──概要はこんな感じ。
そもそも、ミックスライブにイラスト部門なんてものはなくて、黒田さんはミックスライブの公式チャンネルのサムネを書いている人だそうだ。そして、最初からみんなの狙いは、ましろさんにイラストを描いてもらうことだったそう。だから、少し粗めにイラストを描いていたそうだ。……あれで粗め?
……すごいなぁ……これがすべて想定内なんて。さすが企画力の鬼・ミックスライブだ……。
まぁ何はともあれ。
「「「「今日はありがとうございました!」」」」
「いいってことよ〜」
「なにかあったら、遠慮なく頼ってくださいね〜」
☆
ちなみに、イラストと2Dモデルはその日の夜に3枚とも届いたみたい。
5、6時間で3枚との2Dモデルまで仕上げるなんて、さすがはネッタークイーン……。
あと、壁紙ようにと、4人集合イラストまでもらっちゃった! めっちゃ嬉しい!
《あとがき》
50000PVありがとうございます!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます