第21話.Let’s本社へ!

 うーん、僕はまだ配信始めたばかりの新人だからなぁ……。2回配信しただけで所属になるってのはどうなんだろう。


 そんなことを考えていると。


〘そういえば、零くんはどこに住んでます? 東京の場合はさらにどこに住んでいるかまで教えていただけたらありがたいです〙


 ん? 住所?


〘東京の八王子市に住んでいますよ〙

〘でしたら、もしよろしければ今日の午後にでもうちの事務所来ますか?〙


 ……ん???


 えっ……んっ!?


 いや、言いたいことはわかる……わか……うん、やっぱわかんないや。


 そういうのって所属することを決めた人がするものじゃないの?


〘まぁまぁ、そう考えずに〙


 ん〜、すっごい心読まれてる!


〘事務所に来てみたら、所属するかどうかの参考にもなると思うんですよね〙

〘でも、行ったところで所属することの決め手がある気がしないんですけど……〙

〘実はもう1つ意味がありまして。もし零くんが所属することになったら同期にあたる方々が3名、今日事務所に来られるんですよね。まぁ、そういうことです〙


 そういうことらしいです。


〘それって今はまだ、ただのVTuberでしかない私が会っていいやつじゃないですよね……?〙

〘全然大丈夫です。零くんもよく知っている方々なので〙


 知ってる方々? 僕が知ってる人って、ほとんどミックスライブ所属のVTuberさんしかいないんだけど……。


 まぁそこまで言うなら、行ってみてもいいか。


 理解はした、ただし納得はしていない。






     ☆






 昼食を食べて身支度まで済ませた僕は、どうやら事務所から迎えが来るらしいから、それまでアニカーの新しいカートコンセプトを考えながら待つことにした。


 そして2時ちょうど。


 ──ピ〜ンポ~ン。


 インターホンが鳴り、僕はすぐにアニカーをやめる。


「は〜い!」


 準備しておいたバッグを持って、返事をしながら玄関に向かう。


 そして、緊張しながら扉を開ける。


「あ、こんにちは。ミックスライブでマネージャーをしています、最上もがみあやと申します」

「こ、こんにちは! 神宮寺零として活動している、吉村凪です! 本日はよろしくおねがいします!」

「大声で身バレしそうなことを言わないでください……。あと、そんなにかしこまらなくてもいいですよ? そこまで上の立場でもありませんし。」

「え、え〜っと……」


 かしこまらないでいいといわれても、困ってしまうのが日本人。


 そして、それに対して返事もできないのが僕みたいな陰キャです。


 そうやって反応に困っていると。


「まぁ凪くんの話しやすいようにしてくれて大丈夫です。それでは早速事務所に向かいましょうか」


 ……やっぱりね、こういう自然と優しくできる人が大手VTuber事務所のマネージャーになれるんだろうね。


 この人の担当のVさんはきっと幸せなんだろうなぁ。


 そうして僕は車に乗り込み、1時間ほど掛けて事務所まで送ってもらった。






     ☆






 東京都、港区。ここにミックスライブ本社があるらしい。ちなみに僕は、こんな陽キャが来るような場所には初めて来るから地理がまったくわからない。


「さぁ、凪くん。着きましたよ。ここがミックスライブ本社です」

「ありがとうございます!」

「いえいえ。私たちが1番乗りでしたね。おそらくそろそろ来られると思いますが……」


 そう言いながら、最上さんは辺りを見渡す。


 どうやら、全員揃ってから事務所に入るらしい。


「そういえば、凪くんはなぜVTuberに?」


 そうして残り3人を待っていると、最上さんが僕に問いかけてくる。


「そ、それ聞きます……? え〜っと、リアルだともうTHE.陰キャっていう印象で固まってしまったので、いつも見る側で大好きだったVTuberになったら少しは変われるかな、と思いまして……」


 やっば、これ説明するのはっず!


「そうなんですね、それは無神経でごめんなさい。ですが、凪くんが陰キャ、というのは少し意外でした。声がすごくかっこいいのに……」

「あ、ありがとうございます! 声は昔、親戚にも褒められた事があったので少し自信を持てるところなんですよね。ただまぁ、この見た目と性格から、ほとんど喋らないんですけどね……」


 髪はボサボサではない、というかかなりストレートな方だけど、目が隠れるかどうかというところまで伸ばしており、メガネをかけている。制服はきちんと整えることを心がけているが、逆にそれが陰キャっていう感じを出しているのかもね。まぁ、もう慣れたから特に気にならないけど。


「……差し支えなければ一回髪を横に流して、メガネを外してみてくれませんか?」

「え、別にいいですけど……あ、メガネ外したら実はイケメン、とかアニメみたいなことはないと思いますよ? まぁ、家族とか親戚以外にメガネ外した姿を見せるのは小学生以来ですけど……」


 予め保険を張り巡らせながら、僕は言われたとおりにメガネを外し、髪を横に流した。


「……え?」


 なにやら驚いた表情を見せる最上さん。


 ど、どうしたんだろう……? そんなにダメな顔だった……?


「え、えっと、最上さん? 大丈夫ですか……?」

「あ、う、うん。私は大丈夫だけど……あ、2人目がついたみたいだよ!」


 あ、ほんとだ。雑談してたらいつの間にか来てたみたい。


 ……って、あれ? あれって──。


「ふわぁ……やっとついた〜! って、ん?」






「「なんで祐希(凪)がいるの(いるんだよ)!?」」






 〜〜〜最上彩視点〜〜〜




「差し支えなければ一回髪を横に流して、メガネを外してみてくれませんか?」

「え? 別にいいですけど……人に見せるほど整ってもいないと思うんですけどね。まぁ、人にメガネ外した姿を見せるのは小学生以来ですけどね」


「……え?」


 いや……え?


 すっっっっごいかっこいいんだけど!?


 いやいや、なんでいつも髪で顔隠しちゃってるのさ!


 絶対コンタクトに変えて、髪のセットまで真面目にやったらモテるって!


 ──そうして、私は1人悶えるのだった。










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