第4話 能力測定②

 急いでリングまで来たハルアの姿を横目に、困った表情を浮かべたのは左手にいるルールウであった。


「もう、何してるのよぉ。何か心配事でもあるの? ずっと何か考えてる様だったけど」


 そういうと、追随する様に、隣にいるリメルとアークが言葉を掛けた。


「そうよ! 何考えてたのよ。まさか、同期生の女の子達のこと考えてたとか?」


「いや……いくら何でもそれは無いだろ……」


 そう言われたハルアは──そんなんじゃねーよ! と慌てる様子を見せながらも言葉を続けた。


「お前達とも腐れ縁だなって感慨に耽ってたんだよ。小さな頃からずっとだなってさ」


「何で今の時間にそんな事考えてんだ……どれに振り分けされるかならまだ分かるけど」


「そうよ。何で今さら……やっぱり女の子達の事を考えてたんじゃないのぉ?」


 悪戯っぽくそう言ってみたが、もう1人に止められた。


「2人ともそこまでだよ。もう振り分けが始まりそうだから集中しよう」

 

 ルールウがそう口を挟むと、2人は慌ててリングに集中して手を翳した。

 それを見たハルアは安堵の表情を見せながら言葉を掛けた。

 

「助かったよ、ルールウ……。リメルは一度言い出すと長くなりかねないし」



「そうだね。でも、後で何考えてたか教えてね?」



 笑顔でそう返してきたのだが、明らかに口調に角がある。

 

「……いや、本当に他の女子の事は考えてないぞ」


「後でね」


「だから……」


「後でね」


「…………」


 これ以上言うのは冤罪を招きかねないのでやめておく事にしよう。

 そう自分に言い聞かせることにする。

 でも、本当に考えてないんだけどなぁ……。



 ◇🔹◇🔹◇

 


「では! リングを見て下さい」


 

 そう言われるままエメロードリングを見てみると、ぼんやりと文字が浮かび上がっていた。俺の目の前には微かに赤く揺らめく文字で〈召喚サモン〉と表示されていた。


 左隣のルールウは〈魔法マジック〉と浮かんでいた。

 その向こうのリメルとアークの文字までは見えなかったが、2人の様子を見る限り、そんなに期待はずれの適性じゃなかったんだと思う。

 

 こうして、適性診断を終えた俺は、〈召喚〉に振り分けされた席に向かっていた。すると後ろから明るいトーンで話しかけられた。


「ハルアも〈召喚〉なんだなッ」


 その声に振り向くと、アークで、俺の右肩を軽く叩いた。


「アークもだったんだなぁ。俺とお前が〈召喚〉で、リメルは……〈勇者〉の席に向かってるな……。ルールウはチラッと見えたけど〈魔法〉だったぜ」


「そうなんだな。俺は後ひとつ〈勇者〉の特性が出てたみたいでさ……。ふたつの特性にはちょっと驚いたけど何とかしてみようと思うよ。少し緊張するけどな……。まぁ俺とは違って、リメルとルールウは器用だから、どこに分けられても、すぐに使える様になると思うしな。俺らも対応できる様に頑張ろうな!」


「まぁ頑張るけど……にしてもすげーな。俺はひとつだけだったよ。でも、アークなら出来るさ。何やらせても出来んだからさー」


「一応言っておくが、これでもできる様には努力はしてるんだぞッ。全く何もしてない訳じゃないからな」


「それは知ってるけど、その努力すらも難なくするからなぁ、お前は……」


「そう見えるだけだと思うぞ」

 

 こんな会話が終わる頃には、俺とアークは席に着きその後も何事もなく全員の診断が終わった。


 そして、分かれて座った正面には、それぞれの適性を教えてくれるだろう教官が立っていた。


 〈武術マールツ〉の前には、初めからこの場にいた筋骨隆々のガルバ・ゼルディス教官。


 〈魔法マジック〉には──まぁ、そうだろうな。と思う外見のイリス・メルサラーク教官。


 で、ここからは初めましての教官だった。

 

 〈勇者ブレイブ〉の所にはストレートの金髪を背中あたりまで伸ばした女性で、身長は俺と変わらないくらいに見えるので、170センチ前後と思う。


 全身をタイトな黒のバトルスーツに身を包んで、胸部と下半身にはそれと分かる様に魔法加工マクセングされたプレートと、動き易さ重視の、短めの白スカートを着用していた。


 その教官は口を開き自己紹介を始めた。 


「私は、ルミナ・カシャルーティスです。因みにですが、年齢はガルバさんはもちろん、イリスさんよりも7歳若い18歳です!」

 

 と、両手を腰に当て、胸を張り言った。

 

 その言葉にメルサラーク教官は明らかに目が怒っている。

 ゼルディス教官は──はっはっはっ。と笑うだけだった。

 カシャルーティス教官の事は、なんかそんな人! と理解しておこうと思う。


 〈獣幻ビスジョン〉には3メルトはあると思う大きな体で、全身茶色の毛に覆われた熊の姿を持ち、声からすると男だと分かる人? 熊? が話し始めた。


「オレは、センス・ラビットートだ。見ての通りオレは熊獣ユウジュウ特性だ! 皆の前にはあえてこの姿で来た! 獣幻の場合は今のオレの様に、初めから全身変化まで出来る者と部分変化までしか出来ない者に別れるが、訓練をしていけば、ここまではできる様になる! だが!」


 そう言うと、ちょっと名前に違和感を覚えるラビットート教官は、全身白色の光のベールに包まれ、そのベールが剥がれると、まるで違う姿で現れた。


 さっきの半分ほどの身長で、床まで着きそうな長い白銀の髪を持つ──小柄な少女だった……んッ!?

 ──マジか!? と思ってしまい、外見と声だけで、そう決めつけてしまった自分が情けなく思う。


 それはともかく、その姿でも、変化はあった。


 毛には覆われてないものの、胸が見えるのではないかと期待をしてしまうほどの、ゆったりとした白地のノースリーブを着ている。

 そこから伸びる両腕には、5本の微かに光を帯びた線が各指先まで伸び、額には三日月の刻印が浮かび上がっていた。


 赤のホットパンツから伸びた白い足の横にも、光を帯びた線が一本入っている。

 小柄で色白、声は熊の時とは違い、可愛らしい感じだと思う。


 まぁ、正直に言えば結構可愛い。


 その学生達の視線を感じてか、それとも確信犯なのか、口角を──ニィっと上げて小柄な割には大きめの胸を張り、腰に手を当て言葉を続けた。


「ぬふん。どうだ、みんなオレを男だと思ったか? 何人が女だと気づいたか? まぁ居ないだろうな! とまぁ、こんな感じで、小柄なオレでも舐められず十分戦える特性だぞ! ルミナ姉も言ったから言うが、オレもイリスより11歳若い14歳だぞ!」

 

 その言葉にメルサラーク教官は、さらに目が怒りに満ち溢れていた。そして、低い声で2人に向けて言葉を言った。

 

「ルミナぁ〜? センスぅ〜? ちょ〜っと後から私の所に来てねぇ〜?」

 

 その背筋も凍りつきそうな低音に、2人の顔からは一気に血の気が引いて真っ青になっていた。ラビットート教官に至っては、体を震わせ、目尻に涙を溜めてその恐怖に耐えている様に見えた。


 2人に掛けられた言葉だったんだが、それを目の前で聞いていた俺や、他の学生達も背筋を伸ばした。


 で、多分俺だけじゃないとは思うけど──この教官は怒らせたらダメだ。と全身で感じていた。 


 その様子に気を取られていると、最後にもう1人、つまり俺たちの所〈召喚サモン〉の前に立っていた教官が声を出した。


「あぁ……、俺自己紹介していいかな?」


 その声に、教官も学生達も──あ……。と言う声を上げそうなほどに口を開いていた。


「すみません……。どうぞお願いします。ゼシアス教官……」

と、申し訳なさそうにメルサラーク教官が言うと「改めて……」の一言から始まった。


 痩せ型で背は高く、少し小さめのメガネを掛け、軽く括れるほどの黒髪を肩まで伸ばしている。

 全身はゆったりとした上下黒の長袖、長ズボンを着用していた。

 

「え〜、俺は〈召喚〉担当のキール・ゼシアスだ。まぁ流れ的に年齢を言えばだな、28歳でメルサラークよりも3歳年上だ!」

 

 その言葉を聞いた瞬間、俺達学生も、さっきの2人の教官も絶句した。

 そして同じこと思ったはずだ。

 

((そこ読む流れじゃねーよ!!))

 

 恐る恐るメルサラーク教官に目をやると──もうどうしよう……。

 手の施しようがない。

 なんかもう手に魔力がこもって光ってるし……。


 そう思った次の瞬間には2人の教官は勿論、ゼシアス教官は大きな音と共に床に顔を埋めて倒れていた。


「じゃあ! 各特性の教室に分かれて、能力覚醒をしましょう!」

 

 ──うん

 

 やっぱりメルサラーク教官は怒らせたらダメだな。

 これは心の中に縫い付けておこうと思う。


 そのメリサラーク教官は、何もなかったかの様に軽く手を叩き促すと、俺達はそれに従い各教室に分かれた。

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