第56話 抗魔騎士団と魔者
──20分程前。
【ルーメル】のエメロードリング前には、ペリシアが到着していた。
ここに到着するまでに、猛級と思われる
それらを消し飛ばし、エメロードリングの無事の確認を終えていた。
だが、そこまでだった──。
ペリシアの驚愕は当然であった。
目の前にいるのは、《命都サイラム》──
──《レギア・ベレル》〈30歳〉
《竜》の纏召喚能力を持つ、金髪を
ペリシアは、額に汗を滲ませながら言葉を発した。
「なんであなたがいる……? ここは魔生に囲まれていたのに……」
「何を言っているんだ? オレはこの【スイールの街】が危なくなっているからここにいるのだぞ?」
レギアの答えに、歯を噛み締めると言葉を続けた。
「──確かに今は魔生が襲ってきていた……。でもなんであなたは魔生に襲われてない? もっと言えば、なんでこの場所に戦った形跡がない……? ここにあるのはたった今私が倒した魔生の跡ばかり」
このペリシアの疑問に、レギアは「──ふっ……」と言い続ける。
「──やはり誤魔化せないようだな。なら事実を伝えてやる……」
「事実とはなんだ……?」
ペリシアは嫌な予感を抱えながら聞く。
「オレは元々魔者側だったと言う事だ」
やはりと言う感じでペリシアは問い続ける。
「この騒動は最初から計画していたのか?」
「そうだな、一ヶ月前からすでに計画していたさ。この計画は【魔都ガブラ】でとある女性達と計画したものだ。まぁ名前は言わないがな……」
「
「お前になんと言われようとオレにはやらなければいけないことがある……邪魔をするな」
レギアは言うと、続ける────。
「顕現しろ……《
この言葉は、レギアの全身を竜の鱗が覆い、見た目だけで言えば竜の人間──《竜人》であった。
レギアはペリシアに狙いを定めると────、
「──【
一言放つと手を振り切っていた!
これと同時に無数の《
ペリシアは腰に帯刀していた綺麗な流線形の刀を抜くと、それらを全て防ぐ!
「──流石にこれじゃあ効かんよなァ。【
「なら分かるでしょ、レギア……? あなたでは私に勝てないことくらい」
「ああ確かにな。今のままでは勝てんなお前には。だがそれはオレがこのままだったらの話だ……」
レギアの含みのある言いように、ペリシアは疑問を浮かべた。だが、その疑問がすぐに明らかになる。
レギアは右手を掲げ言い放った!
「──収束しろ!
この言葉は、ペリシアが倒した魔生の残骸──、そして、スイール街中の魔生の黒靄を集め始めた──。
これが全てレギアに集まるには然程時間は掛からなかった。黒靄がレギアを包むように渦を巻き、それが消える。
そこに現れたのは、先程とは全く違う姿だった。
全身を揺らめく漆黒の鎧を纏い。
その体長は凡そ五メートルを超え、完全な竜の姿──、さながら鎧を纏った《黒竜》である。
「なに……!? それは!? 人が使う力の次元を超えている!」
「──このくらいで驚くな。これはまだ試作段階のものに過ぎない」
レギアの答えにペリシアは歯を噛み締めた。
(この力がまだ試作段階!? 冗談でしょ……。この力はとんでもない! 今の私では勝てる気がし──)
考えをまとめる間もなく────。
「──ゔッ!?」
ペリシアの小さな苦悶の声と共に大きな打撃音と、それがぶつかった壁の轟音が響き渡った!
壁は崩れ落ち、
「──がはッ!! う、ぐぅぅゔ……」
ペリシアは黒竜の右手に吹っ飛ばされていたのだ。
口から血を吐き体を横たえながらレギアに半眼を向けている。
(──咄嗟に防御はしたけど……骨の大半が折れてる……はぁ……)
レギアは、横たわるペリシアが動くことができないことを確認すると、ゆっくりとエメロードリングに近づき右手を翳すと、漆黒の靄を出現させ包み込んでいる。そして次にはエメロードリングを取り込み終わっていた。
レギアは目的を達したとばかりに、元の姿に戻ると、指を鳴らしスイール全体を覆う漆黒の闇を展開していた。
レギアはペリシアに視線を向け、トドメを刺すべく歩み寄っていた。そして【
だが──!
──ガキンッ!! という音と共に、光を放つ剣がそれを弾き飛ばしていたのだ!
「──させねーよ!! センスの姉貴を殺させはしねーー!!!!」
「ぐッ!」
レギアは弾き飛ばされた剣と共に後方へと吹き飛ばされていた。
ペリシアはその姿を確認すると少年の名前を口にする。
「──ハルア君……」
ハルアと同時に到着したミスティと、
そして──。
「ペリシアさん何とか無事か?」
ハルアの問いにゆっくりと口を開き答える。
「──ああ……大半の骨は折れてはいるが、命には別状はないよ……」
ペリシアの状態を見たセンスは激怒しレギアに向かい全力で拳を振り切った! しかし──!
これを軽々受け止めたレギアは、そのままセンスの腕を掴み腹部へと蹴りを埋めた!
まともに受けたセンスは、ハルア達のいるところに吹っ飛ばされる。
──が、ミスティの神力によりそのダメージを軽減できていた。
「くっそッ! アイツつえーな……」
「……センス、あれはアリアの隊長格よ。今のあんたには勝てない……」
ペリシアのこの言葉に耳を疑ったのはハルアだ。
怒りに任せて言葉を放つ。
「──隊長がなにしてんだよ!! 人々を守るのが抗魔騎士団だろーが!!」
ハルアの言うことを否定せず、逆に肯定していた。
「確かに少年。お前の言う通り、抗魔騎士団は人々を守る存在だ……。だがな、人々を守る以前にオレは家族を守る為に騎士団にいる。このまま、この魔者が支配する世界で、家族を守るには強い方につくのは当然の話だ……」
「だったら家族と一緒に人々も守ればいいだろ!!」
ハルアの返しに鼻で笑うと続ける。
「なら聞くぞ少年。もしお前の家族が魔者であるならお前はどちらを選択する?」
レギアの言うことをすぐには理解できなかったハルアは、少しの間を置き言った。
「──あんたの家族は魔者なのか……?」
これに頷くとレギアは返す。
「オレの妻は魔者だ。そしてハーフの娘もいる。お前ならどうする? 人間側について家族を殺すか? それともオレと同じ様な道を選ぶか? どちらかに決めるとどちらかが敵となる。そうなるのなら、オレは家族を選ぶ!」
ハルアはこれに答えられないでいた。
もし自分ならどっちを選ぶのだろう?
人間には人間の生活があり、魔者には魔者の生活がある。このどちらかが敵だとどうして判断できるのだと……。
確かに魔者は人を殺し、奴隷とし、捨て駒にする。
しかし、逆もあるのだ。
人間が魔者を捕まえると、拷問をかけ、その力の源を探ろうと人体実験もする。魔者というだけでだ。
ハルアはだんだんと分からなくなっていた。
戦争には正義も悪もないと言う。
互いが正義と信じ、互いが相手が悪だと断ずる。
「──俺は……どっちを選ぶんだ……よ」
このハルアの戸惑いを見てレギアは剣の構えを解くと言った。
「──少年。お前はいずれどっちかと敵対するだろ。だがそれまで悩むがいい。本当に人間が正しいと言えるのか……。本当に魔者が悪だと言えるのか……」
レギアはそう言い残すと、右手の剣を頭上に掲げ四人に告げる。
「もう時間だ──。次に会う時を楽しみにしているぞ少年。お前の判断を……」
そう言うとスイールを覆う天空を漆黒の闇に吸い込まれる様に消えていった。
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