第55話 デルト・W・ベール

 センスの答えにハルアは口を開く。

「エメロードリングって言ったら、俺達の適性を振り分けたあの……」

「ああそうだ。あれは《神天界》のラフィサリウスによってもたらされたものだと聞いている。つまりだ、膨大な《神力》を保有してんだよ」


 センスは返し、これにミスティが続ける。


「膨大な神力が魔者に渡れば、大変な事になりかねません……。神力を使う事のできる魔者が出てきてしまっては、この魔者優勢の世界で人々は、さらに追いやられてしまいます……」


「それじゃあペリシアさんが向かった【ルーメル】に急がねーと!」


 ハルアの焦りに呼応した様に、センスとミスティも頷き、向かおうとしたその時──!


 倒壊を免れた建物の上部。

 いつの間にか現れたそれは言葉を発した。


「困るんだよ〜。邪魔をされたらなァァアアア!」


 大きな音と同時に三人の前に降りてきた全身黒服の男は、ポケットに手を入れたまま続ける。


「せっかく概ね予定通りに進んでんのに、ここで茶々を入れられたらな……──ん?」


 三人の前にいる男はハルアに視線を向け気付いたように口を開く。


「──テメェ、あの森で会ったガキだな……」


 横に伸びた長い耳と褐色の肌。

 少年の姿をしたダークエルフ。

 ──【デルト・ウィールド・ベール】。

 森で姿を現した剣となった魔者……《魔封剣デルト》が目の前にいたのだ。


「!? お前は森の時の!」


 ハルアの反応にミスティとセンスは聞き返す。


「どう言うこと? ハルア?」

「ハルア! お前はアイツと会ったことあるのか?」


「──ああ……。アイツは俺が皆んなから離れてラシリアとレオリスと一緒にいた時に現れた奴だよ。人造魔生アーシャルを連れてきたルジールの持っていた剣になっていた魔者だ……。アイツはヤバい……」


 デルトはハルアに視線を向け、顎に手を当て口を開く。


「──て言うかお前……体内の力が一つになってんな……いや、分けてあるな……ラシリアあの女か……。まぁいい。邪魔されちゃあ迷惑だからよ、ここでお前らを殺しとくか──」


 言い終わった瞬間──!


 ハルアの懐に入り込んだデルトは、自らの右手を刃に変えて横に薙いでいた。

 だが、その一瞬であっても【神天剣ラーヴェン】でそれを防いだのだ。


「? へぇ〜……。森の中で会った奴とは思えねーなぁ。さすがにあの女が施しただけはあるなァ、──な゛!?」

「なにうちの友達に手ぇーだしてんだよ!!」


 センスがそう放った時にはすでにデルトの横腹を強打していた!

 これを受けたデルトはそのままぶっ飛ばされ、倒壊音とともに体を建物へと埋めていた。

 しかし、倒壊した建物をすぐに吹き飛ばすと立ち上がり、デルトは怒鳴り声を上げる。 


「──ってーな! クソ女ァァアア!!」


「テメェも大概、丈夫すぎんだろ! 全力で叩き込んでやったのに全然平気へーきそうじゃねーかよ!!」


「先にテメーから殺してやる!!」

 デルトは動こうとした。

 だが、──頭上より光を放つ剣が迫っていたのだ。


「消え失せろーーーー!」


 銀髪に変化したハルアは、声と同時にデルト目掛けて【神天剣ラーヴェン】を振り下ろした!


 それは轟音と共に、周囲の瓦礫と砂埃を巻き上げ大きなクレーターを作り上げる。

 しかし、砂埃が消えると直撃を受けたであろうデルトは膝を突きつつも、刃に変えていた右手で受け止めていた。


「……あれだけ弱かったお前が、あの女によってここまで力を出せるようになっているとはなぁ……。潜在能力が高かったということか。だが足りない……。これならまだオレの横腹に打撃を与えたそこの女の方が強いなぁ……」


「くそっ──! やっぱりまだ全然届かない……」

 ハルアは後方に飛び退き、間合いを取る。

 両者の間には10メルト程開いている。

 それにセンスとミスティが横についた。


「ハルア、アイツとんでもねーぞ……。うちのこの姿で全力で強打したにも関わらず、平然としてやがる。さっきの魔生なら、胴体ごと消し飛ばすくらいの打撃だったんだぜ……」

 センスの言葉を聞きつつもミスティは小声で聞く。

「ハルア……。時間がないでしょ?」

 

「──ああ……。1分くらいしかねーよ……」

 これにセンスはやはりと言うようにミスティと同じような音量で口を開く。

「すげー力だとは思ったけど、やっぱり制限付きだったんだな……」

「だから、切れたら一日経たねーと力が出せなくなるんだよ……」


 これにセンスは少し考え、ミスティに提案した。

「なぁミスティ、お前の身体強化でハルアを強化してくれ」

 ミスティは申し訳なさそうに答える。

「でも、私の強化の幅は全然小さいよ……。あまり意味ないと思うんだよ……」

「あとはうちに任せろ」


 センスの自信を信じることにしたミスティは小さく頷くと、ハルアに身体強化を施した。


 ──ハルアの体を緩やかな暖かさが覆う。


 施した事をセンスに伝えると、センスはハルアの顔を自分の方に向けさせ、自らも顔を近づけていく。


 この光景を見たミスティは、「──な、なにやってんのー!?」と大声を出し割り込もうとしていた。


 センスは自分の額とハルアの額を合わせながらミスティに視線を向け「──?」と言う表情を浮かべている。


「どうしたんだよ? ミスティ?」

「──え、あの、えっと……。キ、キスするのかと……」

 これにハルアは目を丸くしている。

 だがセンスはさらに「??」と言う表情を濃くし目を細めながら答えている。


「何言ってんだよ……。する訳ねーだろぉ……?」

「そ、そうだよね」

「まぁ、別にしてもいいけどよ。……いや、待てよ。そうか、キスの方が効果が大きいかな……? よしじゃあ! キスするか! ハルア!」


 これにハルアは慌てるが、輪をかけて慌てているのはミスティだ。

 センスを引き剥がそうと必死に引っ張っている。

「だ、ダメー、だょ!」


 だがこの状態を大人しく見逃してくれるデルトではない。


「テメーら! 何やってんだーー!! ふざけてんのかーー!!」

 叫び声と同時にデルトは三人の前に瞬時に移動していた。低い体勢から胴体を真っ二つにするように、刃と化した手を横に振り切った!


 しかし──、その刃は空を切るだけであった。

「──! クソ! 空か!!」

 デルトはすかさず空を見上げると、ハルアはミスティを抱きかかえ、センスはその横に並ぶようにジャンプしていた。


「どうにか間に合ったぜ!」

「──センス、これは一体どう言う事だよ?」

 抱えられているミスティも疑問を浮かべている。


「ああこれな。うちはこの姿になってる時は相手の能力を強化できんだよ。うちの【獣幻ビスジョン】の源、獣我力をハルアの天衣力に変換したんだよ。ただこれは特殊でな、現世界では使える人間がいないとされてる神力を通さないといけねーんだけど、ミスティがいるからな! もしかしたらって思ったんだよ」


「じゃあミスティがいなかったら使い物にならないって事なのか?」

「まぁそういうことだ! だけど、三千年前の半神人ハゴットだったか? そのラシリアっていうのがいたら使えるけど、聞く話、こんなもん使わなくてもバケモンみたいにえーて言うし。実質あまり使い道がなかったんだよな……。だけど、ミスティのがお陰で使い道ができたぜ!」


(『バケモノみたい』って……ラシリアが聞いたら絶対キレるな……。だけど、ミスティとセンスのお陰で、持続時間が伸びた……)


 ハルアの表情を窺い、変化を感じたのか、ミスティが聞く。


「ねぇ、ハルア。ひょっとして持続時間がが伸びたの?」

「ああ、恐らく後10分程なら大丈夫そうだよ。でも、アイツ相手でどこまでいけるか……」

「心配すんな! うちもいる! それにミスティに回復をしてもらえば、また持続時間を伸ばせてやれるぜ!」


 センスは笑顔でそう言うと、見上げるデルトに視線を投げながら二人に向け言う。

「さぁて! さっさとぶっ飛ばして姉貴の所へ行くぜ!」

 

 ハルアとミスティは頷いた。


「ああ!」

「うん! そうだね!」

 二人はそれぞれ口にする。

 そして、センスはデルトに向け言葉を放つ。


「おい! 変な奴! うちらが今からお前をぶっ飛ばしてやるからなぁーー!!」


 言われたデルトは語気を強め大声を上げる。


「そうかよ!! やってみろやーーーー!! お前らにやられるかよ!!!!」


「ハルア、全力で行けよ!」

「任せろ!!」


 そう答えると、ハルアは【神天剣ラーヴェン】に天衣力を込める。

 センスは体に光を纏わせ、その右手には再び【光剣】を生み出し構えている。

 

 そして、空中から滑空するように、デルト目掛けて斬り下ろそうとした────。


 その時──……。

 スイールの街が闇に覆われた。


 これを見たデルトは、三人を見上げる形で顔に手を当てている。

 顔に覆った手の、指の隙間から見える目は見開かれ、口元には不気味な笑みを作り上げていた。

 そして、──口にする。


「──無事回収できたんだな……。もうここには用はないな……」


 デルトは、これまでにない力を纏わせた刃を出すと、黒い靄を生み出し、空間を斬り道を開いた瞬間には黒い空間へと姿を消した。

 

 ハルア達は追うことは叶わず、攻撃を加えることなく地面に着地する。

 三人は、逃したと言うことより、スイールを覆う異様な光景の方に驚愕をしていた。しかし、すぐに口を開いたのはミスティだ。


「ハルア! センス! さっきの魔者が言っていた『──無事回収できた』ってエメロードリングのことじゃないの!?」

 

 これにハッと気付きたセンスは矢継ぎ早に言う。


「姉貴に何かあったんだ……! 急がねーと!!」


 これに即座に頷いたハルアは──、


「ああ! 行こう! センス!!」


 この言葉と同時に三人はルーメルへと向かった。



 


 


 


 

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